近年、飲食や介護、観光業といった目に触れるさまざまな分野で国際化が進んでいます。各企業は、人手不足の解消と国際化に対応するために外国人労働者を数多く受け入れ始めました。
外国人労働者の中でも、特定技能を持つ外国人採用に対して企業は関心を寄せています。
特定技能を持つ外国人は一定の日本語試験をパスしている方が多く、日本語でのやり取りもおおよそ問題なくできることが大きな理由です。
しかし、せっかく採用した特定技能外国人も転職が可能なため、企業は採用後に転職されるリスクもゼロではありません。
この記事では、特定技能外国人の転職リスクについて詳しく解説します。
転職対策として職場づくりのポイントや求職者の見極め方、転職に伴う手続きなども紹介しますので、ぜひご一読ください。
特定技能外国人は1号・2号ともに転職が可能
特定技能には2種類の在留資格があり、それぞれ特定技能1号と特定技能2号と呼ばれています。特定技能1号には通算5年の期限、2号は在留期間を更新すれば上限なく在留可能です。
また、1号、2号とも転職の自由はあり日本人同様に転職が可能です。
特定技能外国人が転職するタイミングは大きく分けて2つあり、それぞれで注意するポイントが異なります。
それでは以下、注意するポイントを詳しく見ていきましょう。
自己都合退職
特定技能外国人は、日本人労働者と同じように自己都合でいつでも退職が可能です。技能実習制度で原則的に3年間は転職できませんが、特定技能外国人に転職の制限はありません。
特定技能外国人が退職を検討した場合、現企業で就労しつつ水面下で転職活動を行い、内定をもらってから退職意向を伝えてくるケースが大半と考えられます。
退職の際にもっとも大切な手続きとして、在留資格変更許可申請をしなければなりません。
在留資格変更許可申請は、転職先企業から協力を得る必要があり、申請の結果が出るまでに1~3ヶ月程時間が掛かります。
特定技能外国人は、出入国在留管理局が発行した指定書で指定された活動のみが活動の対象となります。
そのため、在留資格変更許可申請中に前職を退職しても、許可が下りるまでの期間はアルバイトもできません。申請期間中に長くて3か月もの間、アルバイトも不可のため収入が0になってしまう可能性があります。
企業都合の退職
倒産や解雇など、企業都合で特定技能外国人が退職を余儀なくされる場合、企業は転職先支援をしなければなりません。
企業都合で特定技能外国人と雇用契約を解除する場合は、以下のいずれかの義務的支援が必要です。
・所属する業界団体や関連企業などを通じて、新たな受入先情報の提供
・ハローワークや職業紹介事業者の紹介
・特定技能外国人の望む条件、技能レベル、日本語レベル等を踏まえた推薦状の作成
・特定技能所属機関などが職業紹介事業ができる場合は、就職先を斡旋
・当該外国人が求職活動する際の有給休暇付与
・離職時に必要となる各種行政手続きの情報提供(国民健康保険や国民年金の手続きなど)
義務ではありませんが、特定技能外国人の新しい受入先が決まるまで、支援の継続も推奨されます。
受け入れ企業都合の退職で転職支援を行った場合は、支援実施状況に係る届出書に転職支援内容を記載しましょう。
登録支援機関に支援を委託している場合は、上記のサポートを全て委託が可能です。
特定技能外国人のよくある転職理由

特定技能外国人のよくある退職理由は、労働条件の不満、人間関係、外国人への不公平な扱いや文化的な適応が難しいといった内容などです。
特定技能外国人が日本へやってくるきっかけとして、日本の企業が母国に進出している、アニメの影響、経済大国、時間や約束を守るなど、ポジティブな見方があります。
しかし、働き始めてみると実際のイメージのギャップから、驚くケースもあるでしょう。
さらには、思った以上に労働環境が厳しかったり、収入が上がらない、職場での嫌がらせや、自国の文化への不理解など不満は蓄積するばかりです。
さらには、職場での日本語コミュニケーションに苦労し、上司や同僚との意思疎通が難しくなり、結果的に退職に至ったケースもあります。
企業はこれらの問題に対処し、特定技能外国人と日本人労働者にとって働きやすい環境を提供しましょう。
特定技能外国人だからすぐ辞めるわけではない
特定技能外国人だからといってすぐに辞めるわけではありませんが、やりがいを感じられる職場で長く働きたいという思いは、特定技能外国人も日本人労働者も同様です。
外国人だから気軽に転職する文化があるのでは?という偏見は持たず、事業者として職場改善を行っていきましょう。
転職リスクを避けるためには魅力的な職場づくりを
そこで、転職リスクを最小限に抑えるためには、外国人労働者にとって魅力的な職場環境の提供が不可欠です。
やりがいや会社の想いをしっかり伝える

企業の成長や目標を明確に伝え、特定技能外国人が企業の価値観に共感できるようにしましょう。
企業が何を目指しているかが明確であれば日本人同様、特定技能外国人は自身の役割や未来を見越しやすくなります。
そこで、特定技能外国人に対し、個別面談や貢献度を確認する場を設けましょう。
このような場を設けやりがいや想いを心から伝えることで、外国人労働者の定着率が向上し、モチベーションが高まります。企業の成長や目標を共有し、一緒に成長できると感じることが長期的な雇用につながるでしょう。
日本人と同等に接する
特定技能外国人と日本人労働者を同等に接することで、平等な職場環境が生まれます。
特定技能外国人に限らず、外国人労働者が日本人労働者と異なる扱いを受けると、不公平感や孤立感を感じやすくなります。
当然、外国人だから給料が低い、仕事を任せないなどの対応はもってのほかです。多くの外国人労働者が望んでいるのは、平等で公正な環境です。
日本人と同じように接することで、職場への信頼と帰属意識が高まります。平等な対応が特定技能外国人に「自分はこの職場で尊重されている」という安心感を与えるでしょう。
昇給・昇進の基準を明確にする
特定技能外国人も日本人労働者と同様にキャリアアップを望んでいます。
昇給や昇進の基準を明確にし、将来的な見通しが立てやすい環境を提供しましょう。昇給や昇進の基準を定め、各スキルや業務達成度に基づいた評価システムの導入がおすすめです。
業務の習熟度を達成すると段階的に昇給させるなど、明確なキャリアパスを提示してみるのも一つの方法です。昇給や昇進の基準を明確にすることで発生する透明性が信頼を生み、転職のリスクを効果的に回避できます。
孤立させない

特定技能外国人に長く働いてもらうためには、孤独にならないよう企業や同僚とのコミュニケーションが重要です。
言葉や文化の壁から、特定技能外国人は孤独を感じやすいと考えられます。孤独からくるストレスや、不安や悩みを相談する相手がいないことは大きな負担です。
日頃から積極的にコミュニケーションを取り、問題が発生する前に面談するなど、信頼関係を築くよう心がけましょう。
信頼関係が築かれていると、特定技能外国人が孤独を感じにくくなり、職場への不満が生じた場合でも早めに対処可能です。
企業は孤立していないか、注意深く観察するようにしましょう。
働くメンバーとの相性を考える
職場で共にするメンバーの相性なども見極め、人間関係で揉めることがないようにするのも大事です。
また、どのような場合でも外国人に対して嫌がらせであったり、人の面前で怒ったりするのは必ず慎むことです。職場でハラスメントが無いかなどは逐一チェックするとよいでしょう。
寮などの同居人と相性を合わせる
寮での同居人と相性が良いと、特定技能外国人の転職リスクを大幅に減らすことが可能です。
多くの特定技能外国人は会社が提供する寮で生活しています。寮生活では同居人とのコミュニケーションや相互支援が、精神的な安定感に大きく影響します。
相性が良い同居人であれば生活面で悩みを共有できるため、孤独感の軽減が可能です。
反対に、同居人と相性が悪いと職場だけでなく、生活環境でも多くのストレスを感じます。寮の同居人との相性は、特定技能外国人の生活の質に直接影響します。
適切な相性を考慮した部屋割りやサポート体制を整えましょう。
そもそも事前に求職者を見極めることが大事

採用後に転職リスクを最小限にするためには、事前に求職者をしっかり見極めることが重要です。
求職者との面談では、日本語の能力や学ぶ意欲とあわせ、お互いの意向と特性がマッチしているかを確認しましょう。
面談時点で意向をすり合わせることで、採用後のミスマッチを減らせます。ミスマッチを減らし企業の目標を共有すると、特定技能外国人の方も企業に長く勤めるはずです。
さらには、労働条件や職場環境などもオープンに伝えることもミスマッチを防ぐ大きな要素です。
現地の学校における教育体制も確認すること
特定技能外国人は現地で特定技能の教育機関に通い職業スキルを学んでいます。
現地の教育機関の体制やカリキュラムを把握することは、彼らの実力や志向性を見極める材料の一つです。
特定技能向けの教育機関では、日本語や各分野の特定技能試験対策、インターンシップなどの学習内容が提供されています。
さらには企業で長期的に働くことに対する教育を施している機関もあります。受け入れ前に現地の教育機関の学習内容や方針を確認しましょう。
ちなみに特定技能外国人の転職における書類関係などの手続きは?
特定技能外国人の転職に伴う手続きとしては、以下の3つが挙げられます。
・退職先が行う手続き
・転職先が行う手続き
・外国人が行う手続き
ここでは、それぞれが行う手続きの内容を詳しく説明します。
退職先が行う手続き
転職先企業だけでなく退職先企業も、特定技能外国人の退職にあたって必要な手続きがあります。
退職先企業は「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」及び「特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出」を出入国在留管理庁に提出しなければなりません。
退職日が確定した時点で「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」※1の提出が必要です。
特定技能外国人の退職意志の認知後14日以内に「特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出」※2を提出するのが一般的です。
ハローワークには「外国人雇用状況の届出」の提出が必要になります。
※1参照:特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出|出入国在留管理庁
※2参照:特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出|出入国在留管理庁
転職先が行う手続き
在留資格変更許可申請は特定技能外国人が行いますが、申請の際に転職先企業が準備する必要書類が多数あります。
申請には以下の書類の準備などが必要です。
・雇用条件書
・特定技能外国人の支援計画書
・納税証明書
・健康保険、厚生年金保険料領収証
・役員の住民票
これらの書類などを元に入管による細かな審査が行われます。審査内容は、転職先企業の支払予定給与額や社会保険料・税金の支払い、母国語の支援体制、過去に特定技能外国人の行方不明者を出していないかなどです。
母国語の支援体制が整っていない場合は、登録支援機関が代わりに対応できます。
また、転職先企業も退職先企業と同様にハローワークへ「外国人雇用状況の届出」の提出が必要です。忘れずに実施しましょう。
外国人が行う手続き
転職先が決まったら、在留資格変更許可申請をしなければなりません。
在留資格変更許可は、転職を機に特定技能外国人が従事する企業や分野の変更が起こるため、必要となる届出です。
転職先と雇用契約を締結し以下の書類が揃ったら、在留期間の満了日以前に入管にて手続きをしましょう。
・新しい雇用契約書
・在留資格変更許可申請書
・パスポートおよび在留カード
他にも社会保険や税金関連の変更手続きも必要です。
転職先で健康保険や年金などの加入手続きのため、退職先へ解除の手続きを依頼する必要があります。申請の結果が出るまで1~3ヶ月程度の時間が掛かるため、届出は余裕を持って対応しましょう。
なお、退職日から14日以内に「契約機関に関する届出」を入国管理局に提出する必要があります。
まとめ

特定技能外国人の転職リスクについて徹底的に解説してきました。人手不足解消を目的に作られた特定技能の制度は、現在の日本にとって重要です。
そこで受入れ企業は、特定技能外国人に長く働き活躍してもらいたいと考えてる中、サポート体制を整え、特定技能外国人とコミュニケーションを取り信頼関係を築くことが大切です。
言葉も習慣も異なる日本へ仕事をしに来日する特定技能外国人。海を越えやる気を持って来日する外国人と共に歩むにあたり、当記事を参考にモチベーションを維持できる環境を整備いただければ幸いです。