日本では、労働力不足に対応するため、外国人労働者を積極的に受け入れる特定技能制度が導入されています。
特に近年、工業製品製造業分野は人手不足が深刻化しており、多様な人材の確保という課題に対して、一つの解決策として注目されているのは「外国人材の活用」です。
工業製品製造業では、溶接、鋳造、塗装、機械加工など、幅広い職種で特定技能人材が活躍しています。
本記事では、特定技能外国人の工業製品製造業分野における、受入要件から実際の入社までの流れを、各ポイントに分けて詳しく解説します。
特定技能の工業製品製造業はいつから適用されたのか?
日本の労働力不足を解消するための施策として2019年4月に導入されたのが特定技能制度です。
工業製品製造業の特定技能では、以前は「素形材産業分野、産業機械製造業分野、電気電子情報関連産業分野」の3分野に分かれていました。
しかし、特定の分野(産業機械製造業)での受け入れ人数が上限を超えてしまったこともあり、2022年5月から、この3つの分野が統合され、新たに1つの「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」となっています。
参考:特定技能製造3分野の統合について-JITCO(公益財団法人 国際人材協力機構)
この統合により、複雑だった申請方法がシンプルになり、よりスムーズに外国人労働者を特定技能で受け入れることができるようになりました。
また、人材育成の面でも、異なる分野の知識や技術を共有しやすくなり、より高度な人材育成が可能になっています。そして、2024年3月からは、分野名を「工業製品製造業分野」と変更し、新たな業種・業務区分の追加も行われました。
参考:経済産業省「製造業分野の特定技能制度について」
製造業では、熟練者が退職する中、必ずしも世代交代がうまくいっている職場ばかりではありません。そのような中、2024年の法改正では受け入れ人数も大幅に増加し、外国人労働者が技能を持つ即戦力として期待されていることがわかります。
特定技能の製造業分野で受け入れできる業種と業務区分
「製造業」には食料品製造業、繊維工業、機械器具製造業など様々な分野がありますが、今回はその中でも「工業製品製造業」に絞って詳しく解説していきます。
工業製品製造業分野として特定技能外国人を受け入れできる対象分野は、直近の2024年の法改正で【事業所の産業分類(日本標準産業分類)】と、【外国人が従事する業務区分】の二つで整理されることとなりました。
特定技能外国人を受け入れできる事業所の日本標準産業分類
工業製品製造業分野で1号特定技能外国人を採用する場合、2号特定技能外国人で採用する場合と、それぞれの分類の産業に当てはまる必要があります。分類は改正によって変動することがありますので、タイムリーな情報は経済産業省のHPで確認されるとよいです。
工業製品製造業分野で特定技能外国人が従事する業務区分
工業製品製造業分野で特定技能1号の対象となる業務区分がありますが、こちらも改正によって変動するケースがあります。
詳しくは法務省の特定技能運用要領にある、工業製品製造業分野をご覧いただくとよいです。
企業側における特定技能外国人の受入要件
次に、特定技能人材を受け入れる企業として必要な要件を見ていきましょう。
事業の継続
企業が特定技能外国人を受け入れるためには、事業が安定して継続的に運営されている必要があります。これは、労働者の雇用の安定性を確保するための条件です。
具体的には、
・労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること(滞納等がないこと)
・労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
・雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
・前年度末において債務超過(純資産の欄がマイナス)がある場合には、中小企業診断士、税理士、公認会計士等の企業評価を行う能力が あると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通しについて評価を行った書面を、入管のビザ申請時、特定技能所属機関概要書に添付すること
などが挙げられます。
事業者所有の原材料で製造・出荷
特定技能外国人の就労においては、事業所が所有する原材料を使って製品を製造することが求められます。これは、原材料を他企業の国内事業所に支給して製造させたものを含み、直近1年間中にその事業所から出荷されていることが条件です。
・同一企業に属する他の事業所へ引き渡したもの
・自家使用されたもの(その事業所において最終製品として使用されたもの)
・委託販売に出したもの(販売済みでないものを含み,直近1年間中に返品されたものを除く)
上記の場合も、製造品の出荷として認められています。
経済産業省が設置している協議会に加入
受け入れ企業は、特定技能の外国人受入れのビザ申請の前に、経済産業省が設置した「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」に加入する必要があります。
これは、外国人労働者の待遇やサポート体制を確保するための制度です。入会金・年会費は不要で、入会はポータルサイトからオンラインで行えます。
申し込みから入会完了まで時間がかかることもありますので、特定技能外国人の採用を検討している企業や個人事業主は、早めの準備が肝心です。
外国人側に求められる特定技能の要件
特定技能制度で働くためには、外国人労働者自身の日本語能力や専門的な知識が求められています。
特定技能1号を満たす試験に合格する
日本で特定技能外国人として働くためには、2種類の試験に合格していることが必要です。一つは日本語に関する能力を証明するための試験、もう一つは就労分野の技術に関する試験となっています。
日本語試験に合格
特定技能1号では、日本での生活に必要な日本語能力が求められます。日本語試験に合格することは、外国人労働者が業務に適応するための重要なステップです。
「国際交流基金日本語基礎テスト」の合格もしくは「日本語能力試験」でN4以上を取得することが必要となります。「国際交流基金日本語基礎テスト」では、主として就労のために来日する外国人を対象としており、総合得点とそれに基づく判定結果が基準点(200点)以上で合格です。
「日本語能力試験」は日本語を母語としない人向けの試験で、N1(上級)からN5(初級)の5段階にレベルが分かれています。日本語能力試験を使って特定技能で申請するためには、N4(基本的な日本語を理解することができる)以上のレベルが必要です。
どちらの試験も、日本はもちろんのこと、海外でも実施されています。
参考:JFT-Basic 日本国外の開催日程、日本語能力試験 海外の実施都市・実施期間一覧
技能評価試験に合格
さらに、特定の分野での技能を証明する技能評価試験にも合格する必要があります。
1号特定技能外国人は工業製品製造業分野において「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」を有していることが求められており、この技能水準を確認するのが「製造分野特定技能1号評価試験」です。
2024年の法改正により、この技能評価試験も従来の3区分に加え新たに7区分が追加されました。学科試験と実技試験に分かれ、学科試験は正答率65%以上、実技試験は正答率60%以上で合格です。
これにより、即戦力としての評価が可能になります。
特定技能として働くための製造分野特定技能1号評価試験は今のところ、日本だけでなくインドネシア・フィリピン・タイでも実施されています。
今後は開催国も増えるかもしれませんので、詳しくは製造分野特定技能1号評価試験の詳細で確認されるとよいです。
技能実習からの移行
技能実習制度を経た外国人が特定技能に移行するケースも多くあります。技能実習で得た経験を活かして、より高度な業務に従事することが可能です。技能実習2号を良好に修了した場合は、製造分野特定技能1号評価試験及び日本語試験のいずれも免除になります。
技能実習2号を「良好に修了」とは、技能実習を2年10か月以上修了していて以下のいずれかを満たすことで要件をクリアします。
・技能検定3級又は技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格している
・技能検定3級又は技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格していないが、実習実施者の評価調書により、「良好に修了」したと認められる
技能実習3号を修了した外国人については、技能実習2号を良好に修了したことが前提となっているため、製造分野特定技能1号評価試験及び日本語試験のいずれも免除で1号特定技能外国人になることが可能です。
ただし、別分野で技能実習2号を良好に修了した外国人が工業製品製造業分野の特定技能1号へ変更希望する場合は、製造分野特定技能1号評価試験の合格が必要です。
新たな就労先の雇用契約書や健康診断書、前年の源泉徴収票や住民税の課税納税証明書など様々な書類を揃え、入管にビザの申請をします。
住民税納税証明書では、「完納」の状態であることが条件となっています。技能実習中に住民税の滞納などがある場合は、ビザの申請までに全て納税しておきましょう。
特定技能2号になるには
特定技能2号になるためには、一定の経験を積んだ上で、さらに高度な技能が求められることになります。
製造分野特定技能2号評価試験ルート
「製造分野特定技能2号評価試験」に加え、「日本での3年以上の製造業現場での実務経験」「ビジネス・キャリア検定3級(生産管理プランニング区分、生産管理オペレーション区分のいずれか)」があると特定技能2号として申請することができます。
技能検定ルート
「技能検定1級取得」および「日本での3年以上の製造業現場での実務経験」の2つがあると申請可能です。いずれのルートも、日本語試験の結果は特に確認の必要がありません。
特定技能1号が通算5年までしか更新できないのに対し、特定技能2号は更新回数に上限はなく、長期的な雇用の安定が見込まれます。また、要件を満たせば家族(配偶者・子)を日本に呼び寄せることができるようになるので、ハードルは高いですが目指す価値のある在留資格と言えるでしょう。
特定技能外国人を採用するには
特定技能外国人を採用するための方法は、大きく分けて3つあります。ここでは、3つのパターン別採用方法をみていきましょう。
技能実習から移行
技能実習から特定技能へ移行する方法は、通常、比較的スムーズに採用プロセスを進められる人気の採用方法です。技能実習を別の業種や分野で修了していても、製造分野特定技能1号評価試験に合格していれば、工業製品製造業分野で就職することができます。
技能実習を修了すると、多くの実習生が特定技能として申請することになります。
留学生やアルバイトからの移行
日本国内で留学やアルバイトをしている外国人が特定技能に移行するケースも多く、企業にとっても採用のハードルが低い手段です。
この場合も、前述した特定技能の要件(技能評価試験・日本語試験)を満たしていれば、技能実習から移行の時と同様に、在留資格変更許可申請をします。
海外から採用
海外から労働者を採用する場合は、候補者選定から面接、ビザ取得などのサポート体制が重要となります。特定技能の場合、民間の職業紹介事業者からあっせんを受けることが多いでしょう。
①技能実習を終えて帰国した外国人
②特定技能の要件(技能評価試験・日本語試験)を満たしている外国人
が対象となります。
採用から就労まで全体をサポートしてもらえるような職業紹介事業者、登録支援機関と提携できると、手間や負担が減らせるかもしれません。
採用ではミスマッチがないよう入念に面接を
外国人労働者の採用時には、業務内容や職場環境について丁寧に説明し、労働者との相互理解を深めることが重要です。
求職者へ求人票だけ渡し、条件のみで面接を進行させるのはミスマッチの素です。面接で条件を強調すると外国人・日本人を問わず、他社で少しでも良い条件があれば、転職する可能性が増えます。
なので、早期離職を防ぐためにも本人の「会社でこうしたい、将来はこうなりたい」という意向と、本人の人間性や適性などの性質をしっかり確認し、長期的に活躍する人物を見極めるとよいです。
面接の雰囲気作り
まずは緊張を解き、リラックスできる雰囲気作りを心がけましょう。笑顔で接することで、相手も気持ちよく話すことができ、お互いの理解も深まります。
一方、圧迫面接などは会社のイメージダウンになりかねません。さらには圧迫面接を行っても面接と仕事のプレッシャーは別物であるケースも多いです。なのでお互いリラックスする形で面接を行い、相性を見極めるのがベターです。
言語の壁を乗り越えるための工夫
面接時には専門用語を避けて、ゆっくり、はっきりと話すことでコミュニケーションが取りやすくなります。言葉だけでは伝わりにくい部分は、ジェスチャーや表情で表すのも効果的です。
必要に応じて、翻訳ツールを活用することも有効ですが、機械翻訳は誤訳もあります。業務内容や職場環境などの重要な内容については、通訳者を立てることも検討しましょう。
必要なスキルと経験を確認する
業務遂行に必要な日本語能力を具体的に確認します。工業製品製造業分野では日本語能力が比較的求められない職種ではありますが、最低限の意思疎通ができるかどうか、在留資格申請に必要な日本語試験の結果はクリアしているかなどを質問しましょう。
また、職務経歴書に記載されているスキルや経験を具体的に質問してみると、専門スキルについてどの程度理解しているかわかります。
ただし、日本語でうまく説明ができなくても、技術力は持っているという場合もありますので、総合的に判断し、将来的に成長できる可能性も評価できるとよいですね。
労働条件・職場環境の説明
労働時間、賃金、休日など、日本の労働法を遵守した労働条件を提示し、合わせて税金、社会保険など控除項目についての説明もおこなってください。賃金(給料)=手取りでない、ということを理解していないとトラブルの元になりかねません。
仕事内容も具体的に説明し、誤解のないようにしましょう。職場環境として、職場の雰囲気、人間関係、福利厚生などを伝えることも大切です。
内定後の手続き
良い人材とマッチングし採用が決まってからも、雇用契約の締結、各種在留資格申請、事前ガイダンスや健康診断等、支援計画の作成、必要書類の作成等など準備することがたくさんあります。
雇用契約書の締結
雇用契約書には、労働条件、給与、勤務時間、休暇、解雇条件などが明確に記載されていることが必要です。特定技能外国人も日本の労働基準法の適用を受けます。
法に則った適切な労働条件を提供しましょう。
ビザ申請
内定後は、迅速なビザ申請手続きが求められます。
必要な書類は、健康診断書、技能実習証明書や特定技能に必要な試験の合格証、顔写真など外国人が揃えるものと、受入れ先である企業等が用意するもの、登録支援機関が準備するものの3種類になります。
数も多く手続きが複雑なので、専門家に依頼するケースが多いと考えられますが、正確な情報を提供し、必要な書類を早く揃えることがスムーズなビザ取得の鍵です。
審査の遅延に要注意!
混み具合によっては入管による諸々の審査が通常より遅れるケースも。何事も採用計画や諸々の手続きは、早め早めに準備を行うようにしてください。
審査が完了し、新しい職場が入管から指定されるまで外国人労働者は働くことができず、前職の退職時期によっては、長期にわたって職に就けない期間が出てしまいます。
特に、「技能実習2号」から「特定技能1号」へ切り替えるケースなどは遅延についての注意が必要で、「特定活動」ビザの申請を検討することで、特定技能の申請書類が全て揃っていなくても先に申請でき、空白期間を無くしたり、少なくするという方法もあります。
費用は余分にかかりますが、緊急事態のリスクヘッジとして検討してみる価値はあるかもしれません。
支援計画について
外国人労働者が安心して働けるよう、支援計画を策定し、必要なサポートを提供します。
支援計画では、
1.事前ガイダンス
2.出入国する際の送迎
3.住居確保・生活に必要な契約支援
4.生活オリエンテーション
5.公的手続等への同行
6.日本語学習の機会の提供
7.相談・苦情への対応
8.日本人との交流促進
9.転職の支援(人員整理等の場合)
10.定期的な面談・行政機関への通報
の10項目が含まれます。
支援体制が基準を満たしている場合は自社で計画策定もできます。しかし、初めての受け入れ時や基準に達しないときは、登録支援機関に支援計画の実施を委託することも可能です。
※法務省「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成
登録支援機関に依頼する
専門的なサポートが必要な場合、登録支援機関に依頼することで、手続きや日常生活のサポートが円滑に行えます。
登録支援機関とは、特定技能外国人の支援を行う機関として国から認可を受けた専門機関で、特定技能外国人労働者の生活や職場でのサポートを企業から委託を受け行っています。
具体的な役割、業務内容については以下の参考記事が詳しいです。ご参照ください。
参考記事:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜
入社後もフォローをしっかり行う
入社後フォローは、企業等と支援期間の取り組みの中でも特に重要なポイントです。適切なサポートを提供することで、外国人労働者の定着率向上、生産性向上、そして企業全体の活性化に繋がります。
支援計画に沿ってサポート
入社後も支援計画に基づいて、外国人労働者が安心して働ける環境を整えましょう。これには業務や生活の支援が含まれます。支援内容のうち、生活オリエンテーションについては以下の記事で詳しく説明していますのでご覧ください。
参考記事:特定技能外国人に向けた生活オリエンテーションの内容とは
孤立させない
日本文化や企業文化に関する研修の実施、日本人社員との交流など、異文化理解を深めるための機会を増やし、異国での生活において、孤立感を防ぐように配慮しましょう。
日本語教育の提供だけでなく、通訳もしくは多言語対応可能な社内システムの導入など、コミュニケーションを円滑に行うために必要な言語サポートも、外国人労働者にとっては嬉しいものです。
仕事に無理がないよう配慮を
労働者が無理をせず、適切なペースで働けるよう、仕事内容や業務量に配慮することも大切になります。
定期的に面談を行って悩みや不安を聞き出し、必要なサポートはどんなことか、企業としてできることはないか寄り添うことが、外国人労働者にとって安心につながることでしょう。
一時帰国を希望する場合は、休暇の手続きや帰国準備など、必要なサポートを行います。日本の労働基準法では、国籍を問わず要件を満たすことで有給休暇を取得することもできます。
外国人労働者にも有給休暇で気分転換してもらうよう促しましょう。
まとめ
特定技能の工業製品製造業分野での外国人材の受け入れは、企業等にとって貴重な戦力補強の手段です。これからは日本の工業製品製造業において、特定技能の外国人が人手不足解消の切り札として活躍してくれることでしょう。
しかし、受入れから入社後のフォローまで、適切な手続きとサポートが必要です。使用者側と労働者の双方が安心して取り組める環境を整えることで、長期的な協力関係を築くことができます。
特定技能外国人の求人募集から入職後の支援まで精通した職業紹介事業者、登録支援機関を選び、採用した特定技能外国人が長く就労できるようサポート体制を整えましょう。