特定技能の対象職種が拡大され、特定技能外国人を受け入れる企業が増えています。それと同時に転職を希望する外国人も増えることが想定されます。
しかし特定技能外国人の転職は、そう簡単なものではありません。
そこで今回は、特定技能外国人の転職手続きについて、転職の要件や注意点をまじえて解説していきます。
特定技能外国人は転職が可能
制度上、特定技能外国人は転職が認められています。とはいえ、日本人と同じように好きなように転職できるわけではありません。
特定技能の分野によって在留資格が与えられていますので、例えば外食業から宿泊業に移る場合は、特定技能で宿泊の資格を取得する必要があります。
技能実習から特定技能へ移行時に転職も可能
特定技能とよく比較検討される技能実習は、特段の事情がない限り転職は認められていません。しかし技能実習から特定技能へ移行するときには転職が可能です。
これは特定技能に転職の自由が認められているためです。
特定技能に移行するときや、特定技能で就労してからは自由に転職できます。
特定技能外国人が転職するにあたっての要件
転職の自由が認められているとはいえ、転職するにあたって転職する側、受け入れる企業側それぞれが要件を満たす必要があります。
ここでは特定技能外国人の転職に必要な要件を解説していきます。
転職予定の外国人が満たす要件
特定技能1号の在留期間は、通算で上限5年です。たとえば特定技能1号ですでに4年半、在留している場合は、転職したとしても半年しか働けないことになります。特定技能1号で転職を希望するのであれば、在留期間の通算年数に注意しましょう。
特定技能2号は在留期間の上限はありません。ただし、対象分野が非常に限られるため、転職先が特定技能2号の対象分野かよく確認しましょう。
転職先企業の業種の技能試験に合格すること
また、転職先企業の業種の技能試験に合格している必要があります。転職前と同じ分野・業種で転職をする場合、再試験を受ける必要はなく特に問題ありません。
しかし別分野・業種へ転職する場合は、該当する技能試験に合格していなければいけません。
特定技能の対象分野や試験については、法改正により頻繁に内容が変わります。出入国在留管理庁のHPで最新の情報をご確認ください。
新しい受入企業が満たす要件
新しく外国人を受け入れる企業に求められることは以下のとおりです。
◯要件
・求職者が特定技能で認められている対象分野・業種に当てはまっていること
・外国人と結ぶ雇用契約が適切であること
・受入れ企業自体が適切であること〇法令順守〇欠格事由に該当しないことなど
・外国人を受け入れる準備ができていること
・外国人を支援する計画が適切であることなど
◯義務
・雇用契約を確実に履行すること
・外国人の支援を適切に実施すること
・各種届出を行うこと
受入れ企業自体が適切かどうかの基準は、非常に細かく定められています。基準に当てはまらない項目があれば、そもそも外国人を受け入れることができません。
詳しくは出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」をご参照ください。
特定技能外国人の転職手続き
特定技能外国人の転職では転職先の受入企業、外国人本人、転職前の所属企業の三者それぞれに必要な手続きがあります。
どの手続きも全体的に提出期限がタイトであるため、内容を事前に把握しておくことが大切です。
前の受入れ企業が行う手続き
転職前の受け入れ企業は、入管とハローワークへの届出が必要です。
届出先 | タイミング | 届出内容 |
入管 | 退職日確定次第 | 特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出 |
退職後14日以内 | 特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出 | |
退職日決定後14日以内 | 特定技能所属機関による支援計画変更に係る届出 | |
退職後14日以内 | 特定技能所属機関による支援委託契約に係る届出 | |
ハローワーク | 退職後10日以内 | 外国人雇用状況の届出 |
受入れ困難に係る届出は様々な事情により、契約終了を待たずに特定技能外国人の受け入れを終了する場合に提出する書類です。契約途中で転職する場合は、必ず提出しましょう。
特定技能雇用契約に係る届出は、外国人と雇用契約を新たに締結した場合や終了したときに提出します。提出する順番は必ず、受け入れ困難に係る届出→特定技能雇用契約に係る届出となるようにしましょう。
支援計画変更に係る届出は、特定技能1号で受け入れていた外国人が転職することに伴い、支援計画を変更する必要があるため提出します。登録支援機関に計画を委託している場合は、支援機関と連携して手続きを進めます。
支援委託契約に係る届出は、登録支援機関と外国人支援計画を委託する契約を結んでいる場合、転職により委託契約内容を変更、または終了するために必要な届出です。
上記4つの届出は、オンライン・窓口持参・郵送のいずれかの方法で入管に提出しましょう。
外国人雇用状況の届出については運用が管轄で異なりますので、最寄りの労働局、ハローワークなどにお問い合わせください。
上記の手続きとあわせて離職票・源泉徴収票の作成や保険喪失手続きなど、日本人と同じように退職手続きを進めましょう。
外国人が行う手続き
特定技能の転職では、在留資格変更許可申請を行う必要があります。許可申請には多数の書類が必要です。
技能試験の合格証や納税証明書のほか、分野ごとに必要書類が異なります。詳しくは出入国在留管理庁のHPをご確認ください。
また、現在の所属機関を退職したとき、および転職先で雇用契約を結んだときに、所属(契約)期間に関する届出を提出しなければいけません。どちらも提出期限は14日以内です。入管に提出しましょう。
新しい受入れ企業が行う手続き
在留資格変更許可申請は、受け入れ企業が準備する資料が多数あります。過不足のないように余裕をもって準備していきましょう。必要書類は出入国在留管理庁のHPで最新の情報をご確認ください。
また、転職前の受入れ企業と同様に入管、ハローワークへの届出が必要です。
届出先 | タイミング | 届出内容 |
入管 | 雇用契約後14日以内 | 特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出 |
支援委託契約締結後14日以内 | 特定技能所属機関による支援委託契約に係る届出 | |
ハローワーク | 入職後10日以内 | 外国人雇用状況の届出 |
初めて外国人を受け入れる場合、必要書類の多さに手間取っている間に提出期限が過ぎていた、ということもあるので受け入れ前によく確認しておきましょう。
登録支援機関と契約をする場合は、支援機関と連携し都度、必要な手続きを確認しながら進めていきます。
自己都合・会社都合の退職でも手続き内容は変わるのか
自己都合でも会社都合でも、特に退職手続きの内容は変わりません。ただし、会社都合退職の場合は資格外活動許可が認められるため、次の就職先が見つかるまでの間アルバイトができます。
資格外活動許可は入管に申請しましょう。
自己都合退職では資格外活動許可は認められないためアルバイトはできません。退職から次の就職先で勤務が始まるまでの間、期間が空いたとしても働けないので注意しましょう。
特定技能外国人を採用する際の注意点
特定技能の外国人を採用する際の注意点がいくつかあります。知っておかなければ転職がスムーズに進まなくこともあるため、よく確認しておきましょう。
転職の手続きに時間が掛かる場合も
特定技能外国人を受け入れるには、在留資格更新許可申請を行う必要があります。結果が出るまでの標準審査期間は、通常1カ月程度とされていますが、あくまで目安であるため、これより時間を要することも珍しくありません。
必要書類も多岐にわたるため、準備にはある程度の時間が必要です。
また、転職先企業の業種に関する技能試験を受ける必要がある場合、分野によっては試験の開催頻度が非常に少ないものもあります。
試験を受けるまでに相当の時間を要すると、その分受け入れが先々に延びる可能性があることを理解しておきましょう。
引き抜きの自粛規定
優秀な外国人人材を自社に引き入れようと、スカウトを検討している企業もあるでしょう。
しかし、首都圏を中心に人材の集中を防ぐため、分野ごとに引き抜きの自粛規定を設けている場合があります。
この場合、企業側から声をかけることができません。マッチングサービス等を利用するか、外国人本人が転職先を見つける必要があります。
在留資格変更許可申請が通らないケースも
在留資格変更許可申請は外国人本人の状況はもちろん、受け入れ企業の安定性や在留資格の相当性などを踏まえ、総合的に判断されます。そのため許可申請が通らないケースもあるのです。
許可が通らなければ外国人本人は帰国しなければいけなくなり、採用計画が白紙となることもあります。
転職後は環境に馴染めるようサポートを忘れずに
外国人に限らず言えることですが、転職で環境が変わると少なからず緊張や不安があるものです。
転職してくる外国人はすでに日本で経験を積んでいるとはいえ、新しい環境に慣れるには時間もかかり苦労もあるでしょう。
雇い入れ企業として仕事の進め方や雇用に関することはわかりやすく説明し、人間関係など困りごとがないか、適宜ヒアリングをしながらしっかりサポートしていきましょう。
まとめ
特定技能外国人は転職の自由が認められています。
ただし外国人本人、受け入れ企業ともに様々な要件を満たす必要があるため、そもそも転職が可能かよく確認しましょう。
転職が決まれば必要な手続きが数多く出てきます。提出期限を守り、過不足のないよう準備を進めることが大切です。
せっかく採用した特定技能外国人に自社で長く働いてもらうため、様々なサポートを通じて働きやすい環境作りを行っていきましょう。