日本のビルクリーニング業界では、人手不足が深刻化しています。
この課題を解決する一つの方法として注目されているのが、特定技能外国人の採用です。
しかし、どのように採用を進めれば良いのか、どのようなポイントに注意すべきか分からないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、特定技能外国人をビルクリーニングで採用するメリットから、入社までの流れや注意点までを分かりやすく解説します。
ビルクリーニングで特定技能外国人を雇うメリット
日本のビルクリーニング業界は、建物の清潔さと快適さを保つ重要な役割を担っています。
しかし近年、法律上衛生管理が必要な建築物が増え、ビルクリーニングやビルメンテナンスの需要が高まる一方で、高齢化による労働力減少や、若い世代の離職などにより、ビルクリーニングに関わる仕事で深刻な人材不足が問題となっています。
清掃作業の専門性が高まっているにも関わらず、経験豊富な人材の確保が難しくなってきている現状です。
そこで、この課題を解決するために、特定技能外国人の雇用が注目されています。
特定技能外国人とは、特定の技能を持ち、日本での就労ビザを取得している外国人労働者のことを指します。
メリット1: 労働力不足の解消
ビルクリーニング業界では、シフト制で生活リズムが安定しない、体力を必要とする業務が多いなどの理由などから、若い労働力の確保が難しい現状です。
特定技能ビザを取得した外国人は、一定期間、日本に滞在し、安定的に働くことができます。
また特定技能外国人は、業界の基本的なスキルや日本語能力を身に着けているため、即戦力として活躍できる可能性が高く、労働不足の解消が期待できます。
24時間体制の職場で夜勤がある場合、求人をしてもなかなか人手が集まらないということも多くありますが、深夜割増賃金があるため、喜んで夜勤に入る特定技能外国人も一部いるようです。
こういった高い勤勉性とモチベーションを持つ外国人を採用できることもメリットです。
メリット2: 多様性の向上
様々な国から日本に来ている外国人従業員を採用することで、職場に多様性が生まれる点です。
異なる文化や価値観を持った外国人との交流は、従業員間でも良い刺激となり、新たな視点やアイデアを生み出すきっかけになるかもしれません。
また、多文化共生の職場環境は、従業員同士の理解を深め、協力体制を強化する効果もあります。
一方で注意点も押さえよう
転職が可能
特定技能1号で働く外国人は、転職が認められています。
これは企業(個人事業主を含む。以下「企業」と呼びます。)にとっては新たな人材を採用できるメリットでもありますが、適切な職場環境を提供しないと他の会社に移られてしまうリスクもあり、諸刃の剣とも言えるでしょう。
特に、転職によって特定技能外国人に教育した企業の貴重なノウハウが無駄になったり、教育コストが高くついてしまうという好ましくない影響も念頭に置いて、労働環境の改善や従業員の満足度向上に取り組む必要があります。
特定技能人材の転職リスクや対策については、以下のページに詳しく開設していますので、ご参照ください。
特定技能外国人を採用したいが転職リスクが気になる〜企業側の対策を踏まえて解説〜
特定技能1号・2号とは
ビルクリーニングの特定技能は、1号と2号に在留資格が大きく分かれます。1号は、基本的な清掃作業を遂行できる人材が対象であり、2号は、より専門的な知識や経験を有し、チームをまとめることができる人材が対象です。
企業は、自社のニーズに合わせて、適切なレベルの特定技能を持つ外国人を雇用することで、より効率的な業務遂行が可能となります。
ビルクリーニング分野の特定技能1号
熟練度の高い技術を必要としない分野で働く外国人向けで、最長5年の在留が可能です。
ビルクリーニング分野においては、場所、建材、汚れの種類に応じた清掃方法、洗剤・用具の選択や、清掃機器の操作などの基本的な業務を遂行できる能力を有している人材が対象です。
ビルクリーニング分野の特定技能2号
より高度な技能を必要とする分野で働く外国人向けで、家族の帯同も可能で、在留期間に制限がありません。
ビルクリーニングの分野では、特定技能1号の能力に加え、専門的な知識や経験を有し、複数の作業を計画・指示したり、チームをまとめたりできる能力を有している人材が対象です。
区分 | 1号 | 2号 |
対象となる人材 | 基本的な業務を遂行できる人材 | 専門的な知識や経験を有する人材 |
求められる能力 | 日常的な清掃作業、安全衛生に関する知識 | 複数の作業を計画・実行する能力、チームをまとめる能力 |
主な業務内容 | 掃き掃除、モップ掛け、窓拭きなど日常的な清掃作業、ゴミの回収や清掃機器のメンテナンスなど | 特定技能1号の業務、清掃計画の作成、チームの指導・監督、緊急時の対応など |
取得方法 | ビルクリーニング分野の特定技能1号評価試験、技能実習2号を良好に修了 | ビルクリーニング分野の特定技能2号評価試験、技能検定1級と現場管理の実務経験 |
参考記事:特定技能1号と2号の違いとは?〜それぞれの特徴を踏まえわかりやすく解説〜
特定技能で可能な業務内容
特定技能で可能な業務は、法務省告示で定められています。ビルクリーニング分野では、不特定多数の利用者が利用する建築物の内部を対象に、主に以下の業務が特定技能で認められています。
- 建築物内の清掃:オフィスビル、商業施設、病院、学校など、多数の利用者が利用する様々な種類の建物の内部清掃。
- 建物外部洗浄作業:高所作業を伴わない、外壁、屋上など建物外部の洗浄作業。
- ベッドメイキング: ホテルや旅館など、宿泊施設でのベッドメイク作業。ただし、客室清掃業務(アメニティの交換などを含む)の一環として行う場合に限られます。ベッドメイク作業のみを行うことはできませんので注意が必要です。
- 建築物内外の植裁管理作業:植物の水やりなどの世話も関連作業として認められています。
特定技能の要件
受け入れ企業の要件
ビルクリーニング事業を行う企業は、「建築物清掃業」または「建築物環境衛生総合管理業」の登録が必要です。
また、外国人労働者の生活や就業に関する支援体制を整備し、ビルクリーニング分野の特定技能協議会に加入していなければなりません。
その上で、登録支援機関と連携し、特定技能外国人の支援計画を立てます。
外国人側の要件特定技能は、日本語能力試験で一定レベル以上(1号では、日本語能力試験 N4 または国際交流基金日本語基礎テストのどちらかに合格)であり、ビルクリーニング分野特定技能 1 号評価試験にも合格している外国人がなれる在留資格です。(技能実習 2 号を良好に修了した者は日本語能力試験が免除されます)
さらに、健康状態が良好であることや、税金を滞納していないことなども条件です。
ビルクリーニング分野特定技能評価試験について
ビルクリーニング分野の特定技能1号/2号評価試験は、公益社団法人全国ビルメンテナンス協会という試験実施機関が国内と海外で行っています。海外試験はインドネシア、フィリピン、ネパール、タイ王国、スリランカなどで実施されています。
実施国は変更になることもありますので、最新情報については公益遮断法人全国ビルメンテナンス協会のホームページからご確認ください。
参考URL:公益社団法人全国ビルメンテナンス協会
ビザの申請に合格証明書が必要になります。合格証明書の発行申請については、合格者本人でも可能ですが、特定技能 1 号で働くこととなった企業が、合格証明書発行手数料の負担とともにすることも多いです。
ビルクリーニングで特定技能外国人を受け入れる方
ビルクリーニング分野で特定技能外国人を採用する方法は、大きく分けて3つあります。
海外で試験に合格した人材を雇用
公益社団法人全国ビルメンテナンス協会が海外で実施するビルクリーニング分野の特定技能評価試験に合格した外国人労働者を、海外から直接雇用する方法です。
海外実施の評価試験に合格した外国人で、日本語能力試験でN4レベル以上を持っている人または国際交流基金日本語基礎テストに合格している人なら、特定技能1号として日本で働くことが可能となります。
技能実習2号を良好に修了した人材を雇用
日本で技能実習2号としてビルクリーニングの経験を積んだ人材を、特定技能に移行させる方法です。
具体的には、技能実習1号を「1年」修了し、技能実習2号を「1年10月以上」修了すると、技能実習の合計期間が2年10か月以上となり、要件の1つめをクリアします。
その上で、技能検定3級又は技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格するか、実習実施者に実習中の出勤状況や技能等の修得状況、生活態度等が記載されている「評価調書」を作成してもらうと、技能実習2号を「良好に修了」と認められます。
評価調書がどうしても作成できない場合には、上申書を作成し、経緯を説明することで技能実習2号を良好に修了とされることもあるので、諦めずに入管に確認することが大切です。
技能実習2号を良好に修了していると、日本語能力試験が免除になります。
もし技能実習をビルクリーニング分野ではない違う分野で修了していた場合でも、ビルクリーニング分野の特定技能1号評価試験に合格すれば、ビルクリーニング分野の特定技能1号として在留資格を申請することができ、その場合でも日本語能力は免除となります。
既に国内にいる特定技能人材を雇用
ビルクリーニング分野の他社で働く特定技能1号人材とマッチングすれば、転職してもらうことが可能です。実務経験を積んだ特定技能外国人は貴重な戦力となる可能性が高いため、人材紹介会社などの情報を活用して、積極的に探してみることもおすすめの方法です。
日本での就業・生活に慣れている外国人は、新しい職場にも適応が早いことが多いので、おすすめの採用ルートといえます。
採用にあたってのポイント
どの国から採用するかを決める
ビルクリーニング分野の特定技能1号評価試験が、全ての国で行われているわけではないため、海外からの採用は、必然的に特定の国が多くなることでしょう。採用する国によって文化や習慣が異なるため、自社に合う国を選ぶことが重要です。
人材の豊富さ、日本語能力、文化的な背景などを考慮するとよいでしょう。来日する際の手続きも、採用する国によっては特別な手続きが必要だったり、時間がかかる場合があるので注意してください。
自社で調査等が難しいようであれば、人材紹介会社に相談することも選択肢のひとつです。
面接でスキルや人間性などを見極める
面接では、日本語能力、清掃スキル、協調性などを評価し、企業に適した人材かどうかを判断します。
清掃等の業務について、スキル面の質問をしたときに外国人がうまく答えられない場合でも、特定技能評価試験に合格しているということは、ビルクリーニングに関する技能や知識を有している一定の担保になるので、それほど期待値とかけ離れることにはなりにくいでしょう。
面接では、スキルだけでなく、人間性や日本で働く意思をしっかりと確認しましょう。
内定後に行うこと
初めて特定技能外国人を雇う場合には協議会へ加入
特定技能外国人を雇用する企業は、特定技能協議会への加入が義務付けられています。初めて特定技能外国人を雇用する場合は、ビザ申請前に、ビルクリーニング分野の特定技能協議会に加入しなくてはなりません。
登録支援機関の代行による手続きは認められていないため、特定技能外国人を受け入れる企業・個人事業主(「特定技能所属機関」といいます)が厚生労働省のホームページで手続きを行います。
※ビルクリーニング分野特定技能協議会の加入にあたって、費用はかかりません。
協議会の加入は、受入れ予定日の4か月前には申請できる予定で準備を始めるとよいでしょう。
ビザの申請
在留資格の取得手続きは、内定後速やかに進める必要があります。海外からの採用の場合は、在留資格認定証明書交付申請、国内からの採用は在留資格変更許可申請を行います。
入管に提出する書類は、外国人本人が作成することもできますが、書類の数の多さや複雑さを考えると現実的ではないので、登録支援機関経由で行政書士に依頼することになるケースが多いようです。
必要情報の収集過程では、採用予定の外国人のパスポートのコピーや在留カード、健康診断書や源泉徴収票など個人情報の取得も多いため、書類の管理には十分注意してください。
入国前後では支援計画に沿って行動する
特定技能人材を迎え入れる際には、入国前と入国後における支援計画を立てることが必要です。この支援内容は法律で定められており、特定技能外国人が生活する上で一人では困難なことを中心にサポートすることが決まっています。
※法務省「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成
必要なら登録支援機関を活用することも検討する
支援計画を立てる際、自社での実施が難しい場合は、登録支援機関に依頼することで負担を軽減できます。
登録支援機関は、国から認可を受けた特定技能外国人の支援を行う専門機関です。特定技能外国人労働者に対し、職場での不安や困りごとに対応するだけでなく、日本での生活全般のサポートを提供しています。
登録支援機関を経由することで、得られるメリットのひとつは、特定技能外国人が困りごとを相談しやすくなることです。
これにより、企業も特定技能外国人に対し、より働きやすい環境を整えることができるようになり、転職や離職を防ぐこともできますので、登録支援機関を活用することの恩恵は大きいです。
初めて特定技能外国人を受け入れる場合は、自社では支援計画を立てられませんので、登録支援機関に委託することになります。
登録支援機関に支援計画の全部の実施を委託した場合は、受入れ機関が満たすべき支援体制の基準を満たしたものとみなされますので、業務効率化の面から考えても、登録支援機関への委託は有効です。
登録支援機関の選び方については以下の記事がヒントになります。ぜひご覧ください。
参考記事:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜
入社後に気をつけること
孤立しないようフォローする
外国人従業員が職場や生活で孤立しないよう、積極的にサポートすることが重要です。
特に、言語面での不安を感じる外国人も多いので、日常的なコミュニケーションが円滑に行えるよう日本語教育のサポートを行うことも、企業としてできることの一つになります。
社内の連絡や指示が、外国人にも理解しやすい形で行われるよう、翻訳や通訳など工夫することも有効です。また、困ったことがあればすぐに相談してもらえるよう、登録支援機関からの働きかけも支援として大切なポイントです。
無理な労働にならないよう気をつける
外国人労働者に対しても、日本の労働法規を遵守することはもちろんのこと、適切な労働条件を提供することが求められます。労働環境を整備し、外国人労働者が働きやすい職場を作ることも大切です。
例えば、宗教的な配慮や、社食やお弁当等の食事に関するサポートなど、個々のニーズに応じた対応があると喜ばれます。
外国人労働者が安心して働ける環境を整えることは、同時に日本人労働者にとっても快適な職場環境となり、従業員の満足度向上にもつながります。従業員の満足度が向上するということでいずれ離職率の低下という結果にも表れてきますし、企業の成長と発展につながるでしょう。
適切な労働環境を整え、無理のない範囲で業務を行えるように配慮しましょう。
まとめ
特定技能外国人をビルクリーニング業界で採用することは、人手不足解消や企業の生産性向上に大きく寄与します。
しかし、採用には慎重な準備と継続的なサポートが求められます。その際に頼りになるのが登録支援機関です。
受け入れる企業は、登録支援機関と二人三脚で特定技能の外国人のサポートを行うことにより、外国人労働者が安心して働ける環境を作りやすくなります。
本記事を参考に、外国人雇用の成功に向けて一歩を踏み出してください。
ビルクリーニング分野の情報に関しては、今後、要件や対象業務など内容に変更が行われる可能性があります。最新の情報は、厚生労働省の「ビルクリーニング分野における新たな外国人在の受入れ」というページをご確認ください。