現在の造船・船用工業では高齢化が進み技術継承不足や若い世代の離職率の高さなどに頭を悩ます経営者は多いのではないでしょうか。

しかも、人口減少や現場仕事離れなどにより国内での人材確保が難しくなっています。

深刻な人手不足が課題となっている現在、特定技能外国人の雇用は企業にとって救いの手となるケースも多いです。

しかし、企業にとって採用手順や注意点、制度の理解などの不明点が多く二の足を踏んでいる方もいるかもしれません。

本記事では、特定技能外国人の採用から受け入れまでのポイントを詳しく解説します。人手不足を解消し、企業の成長を加速させるために、特定技能外国人の採用を成功させましょう。

造船・船用工業で特定技能外国人を採用するメリット

人材不足の改善

造船・船用工業分野は、日本において高度な技術と専門知識を要する産業の一つです。しかし、技術者や労働者の不足は、この分野で長らく課題となっています。

そこで、特定技能外国人を積極的に採用することで、この人材不足を改善し、産業の持続可能な発展を図ることができます。

外国人労働者は、特定技能ビザの要件を満たすことにより、即戦力として活動が見込めるケースが多いです。特定技能ビザを取得するためには、日本語能力試験や技能試験の合格が必要です。

これにより、基本的な日本語コミュニケーション能力と業務に必要なスキルが保証されるため、企業は安心して外国人を雇用できます。

また、特定技能1号のビザを持つ外国人は、最大5年間日本で働くことが許可されています。

優れた技術や日本語能力を身につけた労働者は、特定技能2号に移行でき、これによりさらに長期的な雇用が可能です。

長期的な雇用が可能となることで、外国人労働者は技術や経験をさらに積めます。その結果、企業の生産性の向上へとつながるでしょう。

外国人を雇うことで新たな視点も

外国人を雇うことで新たな視点も

外国人労働者を採用することで、日本とは異なる文化がもたらす新たな視点やアイディアが生まれるケースもあります。

また、外国語を話せ、海外の情報を持ってくることで会社の視座も変わり、企業の国際競争力や国内外の物流を高めるための重要な戦略にもなるでしょう。

造船・船用工業で特定技能外国人を採用する注意点

造船・船用工業で特定技能外国人を採用する際には、いくつかの注意点やデメリットがあります。

注意点やデメリットを理解し、適切な対応を行うことが、企業と外国人労働者双方にとっての利益へとつながるはずです。

転職が可能

特定技能外国人は、就労中に他の同業他社への転職が可能です。

企業側では、労働者が転職を考えないよう、働きやすい環境の整備や適切な人間関係を構築しましょう。また、精神的なサポートやキャリアアップの機会を提供することも重要です。

お国柄や考え方・習慣などの理解が必要

造船・船用工業分野で働く外国人労働者の多くがベトナムやフィリピンなどから来ています。

国の文化や習慣は日本と大きく異なる場合が多く、例えば国の倫理観から頭に触れることが許されないなど、職場でのコミュニケーションに影響を与えることもあります。

特に、意図しない言動が誤解を招くことがありますので、相互理解と尊重の精神が必要です。研修やオリエンテーションを通じて、文化の違いに対する理解を深める努力をしてください。

日常会話レベルを超えたコミュニケーションが難しい

特定技能外国人は基本的な日本語能力を有しているものの、専門用語や方言、細かなニュアンスを理解するのは難しいケースもあります。

これにより、仕事の指示に誤解が生じる可能性があります。そこで業務指示は明確にかつ簡潔に行い、必要に応じて簡単な絵や図を利用しましょう。

また、定期的なフィードバックやコミュニケーションを通じて、ほめられる部分はほめて、危険につながる行為は注意を促すといった確認と調整を行うことが大切です。

任せられる業務

任せられる業務

以前、造船・船用工業の業務区分は6つに分かれていました。

しかし現在は、「造船」「船用機械」「船用電気電子機器」の3つの業務区分に再編され、新たな業務も追加されています。

これにより、外国人労働者が活躍できる場が広がりました。新たに従事可能となった業務は以下のとおりです。

業務区分造船船用機械船用電気電子機器
従来の業務・溶接・鉄工・塗装・溶接・鉄工・塗装・仕上げ・機械加工・機械加工・電気機器組み立て
追加された業務・とび・配管・船舶加工・配管・鋳造・金属プレス加工・強化プラスチック成型・機械保全・船用機械加工・金属プレス加工・電気機器組み立て・プリント配線板製造・配管・機械保全・船用電気電子機器加工
参考:国土交通省|造船・船用工業分野における業務区分再編について

上記の主要業務に加えて、関連する業務にも従事できます。具体的には、資材の運搬や整理、作業現場の準備や清掃などです。

ただし、関連業務のみを担当することは認められていません。主な業務を中心に行い、その補助として関連業務を行う形になります。

そこで、社内において特定技能外国人と働く方は関連業務の規則に注意しましょう。

派遣は可能か?

造船・船用工業分野での特定技能外国人の雇用は、直接雇用のみと定められています。派遣労働やパートタイムでの雇用は許可されていません。

これは、特定技能制度が安定した雇用関係のもとで労働者の技能を活用し、保護を図る目的があるためです。

派遣やパートタイムでの雇用を行った場合、外国人労働者と企業には罰則が科される可能性があります。適切な雇用形態で特定技能外国人を受け入れることが重要です。

そして、企業は正社員として直接雇用し、労働条件や福利厚生についても日本人労働者と同等以上の待遇を提供する必要があります。

造船・船用工業における特定技能外国人の要件

特定技能「造船・船用工業」を取得するには、外国人労働者と受け入れ企業の双方が要件をクリアしなくてはなりません。

それぞれの要件について詳しく説明します。

外国人側は日本語能力に関する試験&技能試験に合格すること

特定技能「造船・船用工業」を取得するためには、外国人労働者は技能実習2号を修了、もしくは日本語能力試験と特定技能造船・船用工業分野の技能試験に合格する必要があります。

具体的には以下のとおりです。

・造船・船用工業分野特定技能評価試験の合格
・JFT-Basic国際交流基金日本語基礎テストでA2以上に合格、もしくは日本語能力試験JLPTでN4以上に合格

特定技能1号と特定技能2号で取得方法が異なり、取得要件は以下の表にまとめています。

区分日本語試験技能試験就労可能期間
特定技能1号必要・造船・船用工業分野特定技能1号試験合格最長5年間
特定技能2号不要・造船・船用工業分野特定技能2号試験の合格
・監督もしくは管理職2年以上の経験
期間の制限なし

特定技能2号に移行するためには、より高度な技能試験に合格する必要があります。これにより、長期間にわたり日本で働くことが可能です。

企業側の受け入れ要件

企業側の受け入れ要件

特定技能外国人の受け入れには2つの条件があります。

1.「造船・船用工業分野特定技能協議会」への加入
2.外国人労働者の支援体制を整える

1.「造船・船用工業分野特定技能協議会」への加入

特定技能外国人を受け入れる企業は、国土交通省が設けている「造船・船用工業分野特定技能協議会」への加入が必須となります。

協議会は、特定技能制度の適切な運用・保護を目的とした機関です。

特定技能「造船・船用工業」の外国人労働者を受け入れる場合は、入国後4か月以内の加入が義務付けられています。加入を怠った場合、特定技能外国人の雇用ができなくなるので注意しましょう。

2.外国人労働者の支援体制を整える

特定技能外国人を受け入れる際には、外国人がスムーズに仕事や日常生活を行えるように支援サポート計画書の作成・実施が必要です。

具体的な支援内容は以下の表にまとめています。

※法務省「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成

支援体制の構築は、免除されていない企業の場合、登録支援機関へ「支援サポート計画」の作成依頼をする義務があります。

過去2年間に外国人労働者を受け入れており、生活相談専門の職員やスタッフがいる場合は、自社で支援サポート計画書を作成するか委託するかを選択可能です。

これらの要件を満たすことで、外国人労働者が安心して働ける環境を整えられます。

採用のポイント

特定技能外国人を採用する際には、いくつかの重要なポイントがあり、特に国籍の選定や面接の設定は、採用を成功させる鍵となります。

国籍を選定する

特定技能外国人の採用を検討する際は、国籍の選定も重要です。国ごとに文化や宗教、価値観が異なり、職場でのコミュニケーションや働き方に影響を与える場合があります。

造船・船用工業では、上昇志向が強く、現場での適応力が高いといった理由で中国、フィリピン、ベトナムの出身者が多く活躍しています。

面接を設定

面接を設定

求める人物像と国籍が決まったら、次は面接を行います。面接では候補者の意向や特性を確認し、自社の社風や目的に合っているかを調査・見極めましょう。

適切な面接は、採用後のミスマッチを防ぐために非常に重要です。

特に明確な夢や目標を持っている方は、仕事に対する意欲が高く、成長も早い傾向があります。面接では、こうした点を重点的に確認しましょう。

面接はオンラインでも可能ですが、可能であれば対面で行うことをおすすめします。対面の方が、候補者の人柄や熱意を直接感じ取れ、企業側の意向もより伝わりやすくなるのです。

時間や予算が許すのであれば、積極的に対面面接を検討してください。

内定後の手続き

特定技能外国人を採用する際、内定後には手続きを行う必要があります。これらの手続きを適切に進めることで、外国人労働者がスムーズに入社し働くことが可能です。

協議会の加入

特定技能外国人を受け入れる企業は、国土交通省が設置する「造船・船用工業分野特定技能協議会」への加入が義務付けられています。

採用した外国人労働者の入社後、4か月以内に加入する必要があります。現在、協議会への加入は無料で、手続きも簡単です。

支援計画書の作成

企業は、特定技能外国人の受け入れにあたり「支援サポート計画書」を作成し、出入国在留管理庁へ提出します。

支援サポート計画書は、外国人労働者が日本での生活や職場にスムーズに適応できるように支援するための計画です。

支援サポート計画書を作成した後は、その計画に沿って具体的な支援を行う必要があります。

入国前オリエンテーション

特定技能外国人が日本に入国する前に、オリエンテーションを行うことが義務付けられています。

入国前オリエンテーションは事前ガイダンスと呼ばれており、日本での生活や職場での環境にスムーズに適応するためです。

事前ガイダンスは、雇用契約締結後の在留資格認定証明書交付申請前、または在留資格変更許可申請前に実施します。

対面かもしくはオンラインで行われ、内容は多岐に渡りますが、主な内容は以下のとおりです。

・労働条件や活動内容の詳細説明
・入国手続きに関する案内
・保証金の徴収の有無や返還に関する事項の説明

事前ガイダンスは、企業が自社で実施するか、登録支援機関に委託することが可能です。委託する場合は、すべての義務的支援について登録支援機関の支援を受ける必要があります。

ビザの手続き

内定が決まり雇用契約を結んだ後は、出入国在留管理局に特定技能「造船・船用工業」の在留資格申請を行います。

申請には、国土交通省から発行された「造船・船用工業事業者の確認通知書」の写しも必要です。

・既に日本に在留資格を持っている場合:在留資格変更申請
・海外国籍の場合:在留資格認定証明書交付申請

書類に不備がなければ、3か月程度で出入国在留管理庁から認定証明書または許可通知が届きます

いざ入国!受け入れ時のポイント

いざ入国!受け入れ時のポイント

特定技能外国人が日本に入国した際、受け入れ企業は労働者が新しい環境にスムーズに適応できるよう、様々なサポートを実施する必要があります。

適切なサポートにより、労働者の不安を軽減し、職場でのパフォーマンス向上にもつながるはずです。

入国後のオリエンテーション

入国後のオリエンテーションは生活オリエンテーションと呼ばれます。生活オリエンテーションは、日本での生活に必要な情報を最低8時間以上かけて実施するプログラムです。

目的は、日本のルールやマナーを共有し、外国人労働者が安心して生活できるように支援することです。

オリエンテーションの主な内容は以下が含まれます。

・交通ルールや公共交通機関の利用方法
・地域のハザードマップの確認や緊急時の連絡網の設定
・ATMの使い方や各種支払方法
・医療機関の利用方法など

また、入国前オリエンテーション同様、入国後オリエンテーションも登録支援機関への委託が可能です。

受け入れ後のケアについて

特定技能外国人が日本で働き始めた後も、企業は継続的なサポートを行う必要があります。

サポートにより、外国人労働者が健康で安全に働ける環境を維持し、長期的な雇用関係を築くことが可能です。以下で、具体的なケアのポイントを詳しく説明します。

残業に対するケアを

残業に対するケアを

残業代が支給されることを喜ぶ外国人労働者は多いです。一方で長時間労働による肉体疲労や慣れない環境での精神的ストレスが見えない形で蓄積することがあります。

企業は以下の点に注意を払う必要があります。

・労働時間の管理  
・健康管理の徹底
・日本人スタッフや現場監督による指導

業務の偏りがないようにし、過度な負担がかからないように心がけましょう。

事故が起こらないように配慮する

造船・船用工業の仕事は、日々変化する船の状況や高所作業、重機の操作など、落下や感電などの危険が伴います。

安全な作業環境を維持するために、以下の対策が必要です。

・安全教育の徹底  
・適切な設備と保護具の提供  
・日本人スタッフによる継続的な指導

外国人労働者が安心して作業できる環境を整えましょう。

ビザの更新

ビザの更新は、日本で継続的に働くために不可欠な手続きです。

特定技能1号と2号では更新の手続きや期間に違いがあります。以下で、具体的な更新方法と注意点を説明します。

特定技能1号のビザ更新

特定技能1号の場合、ビザの更新は1年、6ヶ月、または4ヶ月ごとのいずれかです。

在留期間は通算で最長5年まで在留可能です。更新手続きには、必要な書類を準備して出入国在留管理庁に提出します。

特定技能2号のビザ更新

特定技能2号では、ビザの更新は3年、1年、6ヶ月ごとのいずれかです。

在留期間に上限はありません。更新手続きは特定技能1号と同様に、必要な書類を準備して出入国在留管理庁に提出します。

ビザ更新の審査には通常、書類提出後2週間から3ヶ月程度かかります。そのため、更新期限の数ヶ月前から必要な書類を準備し、早めに申請手続きを行いましょう。

特定技能2号を目指すようケアを行う

特定技能2号では、在留期間に上限がなく、長期間にわたり日本で働けます。

長く働いてほしい企業と長く働いて稼ぎたい特定技能外国人とのメリットが一致するなら、特定技能2号の取得を目指してサポートしていきましょう。

そのためには働きやすい職場環境の整備やメンタル面でのサポートを行い、同時に特定技能2号造船・船用工業の試験に合格するための必要な道筋を用意してください。

まとめ

まとめ:造船・船用工業で特定技能外国人を採用したい〜採用・要件から受け入れまでポイント解説〜

造船・船用工業における特定技能外国人の採用について、詳しく解説してきました。高齢化による人材不足の解消や技術の継承に、特定技能制度は有効な手段です。

注意しなければ点を理解して、特定技能制度を適切に活用してください。

本記事のポイントをまとめると次のとおりです。

・外国人採用は人材不足解消や即戦力の確保に有効
・採用には手順と注意点がある
・同業界内での転職は可能で環境整備が必要
・任せられる業務や雇用形態に制限
・協議会加入と支援体制の整備が必須

異なる文化や考え方を持つ外国人労働者を受け入れることは、企業に新たな活力をもたらします。

人材確保に悩む企業は、将来的な会社の存続や利益向上のためにも特定技能外国人の採用をぜひ検討してみてください。