特定技能制度は、外国人労働者の受け入れを進めるための制度で、近年注目されている分野の一つが自動車運送業です。人手不足を補うために、特定技能制度を活用した外国人労働者の採用は加速しています。

本記事では、特定技能における自動車運送業分野の特徴を紹介するとともに、採用から実際に働き始めるまでの流れについて、実務面も交えてわかりやすく解説します。

特定技能「自動車運送業」とは

特定技能制度の概要

少子高齢化の波は、日本の様々な産業に影響を与えています。特に深刻な人手不足に悩まされている業種や職種で、人手不足を解消するための新たな一手として導入されたのが、特定技能制度です。

以前は外国人材の受け入れは、高度な専門知識や技能を持つ人材に限られていましたが、特定技能制度によって、より幅広い分野での外国人材の活用が可能となりました。

特定技能制度は、企業にとって即戦力となるような一定の専門性・技能を持つ外国人材を受け入れ、単なる人手不足解消策にとどまらず、日本の産業を活性化させることを目的としています。この制度によって、日本において求められるスキルを持つ外国人が、特定の業種で働くことが可能になります。

自動車運送業分野での特定技能導入の背景

現在、自動車運送業では、ドライバー不足が問題となっています。高齢化によるベテランドライバーの退職、若者の運送業離れ、長時間労働のイメージなど、様々な要因が絡み合い、人材不足が年々深刻化しているのです。

運転手の確保が難しくなり、業務の効率性や顧客サービスに影響を及ぼすことが懸念されています。そこでこの状況を打破し、国民生活や経済活動を維持するため、2024年、特定技能制度において自動車運送業が対象業種に選ばれました。

海外から技術を持つ若い人材が日本の自動車運送業で活躍することで、業界に新たな活力が生まれることが期待されています。

タクシー・バス・トラックの外国人ドライバーが対象

日本国内では、EC市場の拡大や高齢化社会に伴い、運送業のニーズが増加しており、運転手の確保が急務とされています。深刻なドライバー不足は、サービスの維持を困難にするだけでなく、経済成長の足かせともなりかねません。

そこで特定技能の自動車運送業分野では、重要なインフラを支える自動車運送業の人材確保を支援するため、バス、タクシー、トラックの3区分のドライバーが対象となりました。特定技能外国人に求められる技能水準は以下の通りです。

トラック運送業

運行管理者等の指導・監督の下、貨物自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成や荷崩れを起こさない貨物の積付け等ができる。

タクシー運送業

運行管理者等の指導・監督の下、一般乗用旅客自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成や乗客対応等ができる。

バス運送業

運行管理者等の指導・監督の下、一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業又は特定旅客自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成や乗客対応等ができる。

参考:「自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領 

運転技術や接客もしくは荷役に関するスキルを持つ外国人が、特定技能として業務に従事できることになります。

受け入れの上限

受け入れの上限

自動車運送業分野では有効求人倍率が高い水準で推移していること、時間外労働規制の見直し(いわゆる「2024年問題」)などがあることから、2024年(令和6年度)から5年間で28万8,000人程度の人手不足が見込まれています。

そこで、自動車運送業分野での特定技能制度開始から5年間で(2029年3月=令和10年度末まで)特定技能外国人の受入れにおいて、全国で2万4500人が上限とされました。

特定技能1号と2号の違い

特定技能には1号と2号の区分がありますが、自動車運送業は1号のみが対象です。

1号は、一定の技能と日本語能力を有する外国人材が、最長5年間就労できる資格です。2号は、より高度な技能と日本語能力が求められ、家族の帯同も認められるなど、より長期的な就労が可能です。

自動車運送業は、安全運転やお客様とのコミュニケーションが求められるため、自動車運転の技術はもとより、一定レベルの日本語能力も求められています。

特定技能「自動車運送業」受入れ企業の要件

自動車運送事業の経営

特定技能外国人を受入れようとする事業者は、道路運送法に規定する「自動車運送事業(第二種貨物利用運送事業を含む)」を経営していることが前提条件です。また、労働・社会保険料や税金に滞納などがないことも確認されます。

自動車運送業分野特定技能協議会への参加

出入国在留管理庁への在留資格の申請前に、国土交通省が設置する「自動車運送業分野特定技能協議会」の構成員になることが必要です。

協議会への加入手続きには通常1~3ヶ月ほどの時間がかかります。この加入は在留資格の申請前に行っておかなければなりませんので、特定技能外国人を採用することが決まったら、すぐに手続きを始めておきましょう。

安全性優良事業所

運転者職場環境良好度認証制度の認証

特定技能所属機関になろうとする事業者は、一般財団法人日本海事協会が実施する「運転者職場環境良好度認証制度に基づく認証」いわゆる「働きやすい職場認証制度」で認証を受けることが要件となっています。

この認証を受けるためには、法令遵守等、労働時間・休日、心身の健康、安心・安定、多様な人材の確保・育成、自主性・先進性等の6分野について、基本的な取組要件を満たせば、認証を取得が可能です。国土交通省の指定を受けた「一般財団法人日本海事協会(Class NK)」に申請します。

参考:新規取得の方へ | 自動車運送事業者の働きやすい職場認証制度 (untenshashokuba.go.jp)

全日本トラック協会によるGマーク制度

トラック区分では、「運転者職場環境良好度認証制度に基づく認証」の代わりに「Gマーク制度の認証」を受けても要件を満たすことができます。

Gマーク認定事業者になるには、法令の遵守状況、事故や違反の状況と安全性に関する取組の積極性等の項目で、100点満点中80点以上の評価と社会保険等の適正加入などが認定の要件です。

都道府県トラック協会に申し込みを行います。Gマークの申請は1年に1回、7月のみの受付になりますので、タイミングにご注意ください。

参考:Gマーク制度について

特定技能外国人「自動車運送業」の要件

特定技能外国人「自動車運送業」の要件

自動車運送業分野特定技能1号評価試験の合格

自動車運送業分野特定技能1号評価試験は、外国人が日本で自動車運送業に従事するために必要な技能や知識を評価するための試験です。試験は、運転技能だけでなく、業務に必要な知識や日本の交通ルール、安全運転に関する知識など、実際の業務に直結する内容も問われます。

特定技能評価試験を受けるためには、試験実施日において有効な日本又は外国で取得した自動車運転免許が必要です。これらの自動車運転免許を取得していた場合でも、日本の技能試験の免除等特例措置はありません。

試験の種類

 ・自動車運送業分野特定技能1号評価試験(バス)
 ・自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)
 ・自動車運送業分野特定技能1号評価試験(タクシー)

筆記試験

筆記試験では、道路交通法、運転に関する基本的な知識、安全運転のための注意事項、日本特有の交通事情についての問題が出題されます。特に、日本の交通標識や信号についての理解が求められますので、外国人受験者は事前の学習が必須です。

実技試験

実技試験では、実際に車両を運転し、運転技能が評価されます。具体的な内容は、各区分の車両の操作や駐車、交通状況に応じた運転技術です。

特に安全運転が重視されるため、運転中の注意力や判断力が求められます。この試験に合格することで、在留資格「特定技能」を取得し、日本で働くことが可能になります。

試験に関する詳細な情報は、ポータルサイトで更新されますのでご確認ください。

求められる日本語能力

日本語試験は、業種によって合格が必要となる試験が異なります。

日本語能力試験はN1からN5まであり、N3は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができるレベル」、N4は「基本的な日本語を理解することができるレベル」で、業種によって求められる日本語スキルが異なるので注意しましょう。

トラック運転手は日本語能力試験N4以上ですが、タクシー運転手・バス運転手N3以上が求められます。

なお、職種・作業の種類にかかわらず、第2号技能実習を良好に修了した者については、トラック分野のみ日本語基礎テスト及び日本語能力試験が免除されます。N3相当の日本語能力水準が必要な、タクシーやバスの運転手の場合は、免除制度はありません

日本の自動車運転免許の取得

特定技能として働くためには、日本の運転免許の取得も必要です。事前に外国の運転免許を取得しているときは、入国後に外免切替等によって日本の免許を取得しなければなりません。

トラックは第一種運転免許、タクシーとバスは第二種運転免許が必要となります。

新任運転者研修 

バスとタクシードライバーについては新任運転者研修を受講し、修了することが必要です。新任運転者研修では、「特別な指導」と「適正診断」を受講します。

特別な指導では、以下の内容について講習が行われます。

1. 事業用自動車の安全な運転に関する基本的事項
2. 事業用自動車の構造上の特性と日常点検の方法
3. 運行の安全及び旅客の安全を確保するために留意すべき事項
4. 危険の予測及び回避
5. 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
6. ドライブレコーダーの記録を利用した運転特性の把握と是正(貸切バスのみ)
7. 安全運転の実技

参考資料:旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針

自動車運送業の特定技能外国人採用から就業までの流れ

自動車運送業の特定技能外国人採用から就業までの流れ

この章では、外国人材の採用から、実際に就業するまでの具体的な流れを、ステップごとにわかりやすく解説します。

求人募集と採用のポイント

外国人の採用活動においては、国内での採用とは異なる点に注意が必要です。求人情報は、多言語対応の求人サイトを活用して、日本語だけでなく外国人が理解できる言語で掲載することが重要です。

また、応募書類の確認や面接の際には、文化や習慣の違いに配慮する必要があります。母国語が同じ社員を面接官に加えるなど工夫をすると、コミュニケーションがスムーズに行えます。

面接時は技術面だけでなく、その人の人間性意向も尊重しつつ、企業で活躍できそうな人材かを確認しましょう。

労働条件の確認・契約の締結

採用が決まった外国人と、改めて労働条件に関して確認を行い、契約書を作成します。特定技能は直接雇用フルタイム勤務が原則で、仕事の掛け持ちやアルバイトは禁止です。

賃金や所定労働時間などは、同じ業務に従事する日本人と同等以上の待遇が求められています。給与から控除される項目があるのであれば、その金額等も説明するとトラブル防止になるでしょう。

在留資格申請手続き

採用が決定し、契約を締結したら、在留資格の申請手続きを行います。必要書類を漏れなく準備し、正確に記入することが重要です。

申請手続きには時間がかかる場合があるので、余裕を持って準備を進めましょう。

特定活動ビザ

自動車運送業分野で従事したい外国人は、特定技能ビザを取得する前に、まず、特定活動ビザで入国します。この特定活動ビザの期間は、トラックドライバーは最大6か月間、バス・タクシードライバーは最長1年間です。

日本の自動車免許を取得

特定活動期間の6か月もしくは1年以内に、

・日本の自動車教習所で教習を受け運転免許を取得
・外国の運転免許証から日本の運転免許証に切り替え(外免切替)

などを行います。

外免切替を行うためには、事前に海外で自動車運転免許を取得しており、取得国での滞在が通算して3か月以上あることが必要です。バス・タクシードライバーであれば「第二種運転免許」の取得や「新任運転者研修」も必須です。

在留資格変更手続き

特定技能ビザ

特定技能1号の要件を満たしたら、在留資格を「特定活動」から「特定技能1号」へ変更手続きを行います。特定活動の在留期限が切れる前に申請ができるよう計画的に準備を始めましょう。

特定技能ビザを取得できたら、外国人が単独で乗務できるようになります。

サポート体制の整備

1号特定技能外国人を採用する際には、職業生活・日常生活・社会生活の支援計画を作成、実施することが義務付けられています。この支援は、必ず行わなければならない「義務的支援」と、行うことが望ましいとされる「任意的支援」に分かれます。

義務的支援は、以下に表される10項目です。

※出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成

任意的支援は、特定技能計画書の支援内容として記載した場合、実施義務が発生するものです。

登録支援機関の支援

サポート体制を整えるためには、義務的支援・任意的支援において母国語など特定技能外国人本人が十分に理解できる言語での通訳を介して行われる必要があります。自社で準備することが難しい場合は、登録支援機関に一部もしくは全て委託することができます。

登録支援機関は、特定技能外国人の支援計画の策定や、支援計画に従って支援を実施することの代行を行うことができ、受入れ企業の負担を減らすサポートが得意です。円滑な受け入れやスムーズな業務遂行のために、登録支援機関はパートナーとして頼りになる存在になるはずです。

参考記事:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜

自動車運送業における外国人材活用のメリットと課題

外国人材の活用は、人手不足の解消だけでなく、多言語対応国際化など、様々なメリットをもたらします。多言語対応は、外国人観光客へのサービス向上に繋がり、企業のイメージアップにも貢献するかもしれません。

国際化は、企業の視野を広げ、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めています。一方で、コミュニケーションの問題や文化の違いなど、課題も存在します。

これらの課題を解決するためには、企業側の努力が不可欠です。日本語教育、異文化理解などについて研修プログラムを組んでみる、困りごとを相談できるような相談窓口を設置する、業務内容や社内ルールについて多言語対応するなど、対策できることはいろいろとあります。

このような課題でお困りの場合も、登録支援期間にサポートを求めることで、外国人労働者が能力を最大限に発揮できる環境を整えることができるようになります。

おわりに

特定技能外国人を適正に受け入れ、就労させるためには、企業側に大きな責任と義務があります。企業は、外国人労働者に対して適切な労働条件を提供し、安全衛生に配慮した職場環境を整備する必要があります。

信頼できる登録支援機関を見つけ、二人三脚で特定技能外国人のサポートを行っていくことで、職場の定着率も高くなり、会社全体の業務効率も良くなっていくことが期待できます。今後、自動運転技術の発展に伴い、ドライバーの役割は変化していくと考えられます。

しかし、自動運転技術が完全に普及するまでには、まだ時間がかかると予想されます。その間、特定技能外国人は自動車運送業において重要な役割を担っていくでしょう。

また、自動車運送業分野の特定技能制度についても、更なる改正が行われる可能性があるため、今後の動向に注目していく必要があります。