現在の日本では、急速な高齢化が進んでおり介護人材の需要が増加しています。

しかし、少子化の影響で国内での人材確保が難しくなっているのも事実です。このような状況を打破するために、特定技能外国人を採用しようと考える事業所も多いのではないでしょうか。

採用から受け入れ、そして実際の業務に従事させるまでには多くの手続きや考慮すべき点があります。

本記事では、介護分野における特定技能外国人の採用に関して、メリットや注意点、必要な手続きなどを徹底解説します。

介護で特定技能外国人を採用するメリット

特定技能外国人の採用によって得られるメリットは大きく分けて2つあります。

1つ目は、深刻な人手不足を解消できる点です。

国内での人材確保が難しいなか、特定技能外国人は即戦力としての活躍が期待できます。

2つ目が、多文化交流によってもたらされるサービスの質向上という点です。

特定技能外国人の採用によって、日本人だけでは気付かなかった視点やアプローチの共有が期待できます。入居者の方々にとっても新しい文化に触れることによって、日常生活が豊かになる可能性が高まります。

介護で特定技能外国人を採用する注意点

特定技能外国人を採用する際には、いくつかの注意点やデメリットを理解しておく必要があります。

転職が可能

特定技能外国人は自ら職場を選べるため、転職が可能です。

施設や事業所にとっては、採用した労働者が短期間で離職するリスクがあることを意味します。

もちろん、これは日本人労働者にも当てはまりますが、特定技能外国人にとって働きやすい環境であることは特に重要なポイントです。

長く働きたいと思える労働環境の提供や、すぐに相談しやすい環境を作るなど、施設や事業所側は努めなければなりません。

特定技能2号はない

現在の介護分野に特定技能2号という在留資格はありません。特定技能1号の介護人材が日本で働けるのは5年が上限とされています。

引き続き日本で働くためには、在留資格【介護】の取得が必要です。在留資格【介護】の取得条件は、介護福祉士国家試験の合格です。

施設や事業所は合格に向けて、長期的な人材育成プランを立てることが求められます。

介護における特定技能外国人の要件

介護における特定技能外国人の要件

特定技能外国人を採用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

日本語能力に関する試験&技能試験に合格する

特定技能外国人として介護に従事するためには、日本語試験(国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力N4以上及び介護日本語評価試験)と技能試験に合格する必要があります。

ただし、以下の条件の方は日本語試験及び技能試験が免除されます。

・介護職種の第2号技能実習を良好に修了した方
・介護福祉士養成施設を修了した方
・EPA介護福祉士候補者としての在留期間満了(4年間)の方

現状は介護でも特定技能外国人を雇えないケースがある

すべての介護施設が特定技能外国人を受け入れられるわけではありません。

例えば、訪問看護や重度訪問介護については、対象外又は現行制度において特定技能外国人の雇用が認められていません。

特定技能外国人の受け入れ前に、以下にある表の通り受け入れ可能施設かどうかの確認が重要となります。

介護分野における特定技能外国人の受入れについて

介護分野における特定技能外国人の受入れについて 厚生労働省HPより引用

介護の派遣は現状禁止

特定技能外国人は直接雇用が原則であり、派遣という形での雇用は現状では禁止されています。

介護施設や事業所は特定技能外国人と労働条件や給与、勤務時間などが明記された雇用契約を直接締結しなければなりません。

採用人数の上限に注意

事業所で採用できる特定技能外国人の人数は、介護業については上限が設定されており、事業所単位で日本人など常勤介護職員(雇用保険被保険者)の総数が上限になります。

国内労働者を雇用する機会を守るための措置です。採用計画を立てる際には上限を考慮し、必要な人材を計画的に確保することが求められます。

介護に従事できる他の在留資格と比較

特定技能以外にも介護業界へ従事できる在留資格はあります。

例えば、前述した在留資格【介護】やEPAと言われる介護福祉士資格取得を目的とするもの、技能実習生などがあげられます。

介護に従事できる他の在留資格と比較

なお、技能実習制度は廃止され、今後5年以内に「育成就労」に変更される予定です。長期的な人材育成を考える際には、5年以内に育成就労に変更される点を視野に入れておく必要があります。

採用のポイント

採用のポイント

特定技能外国人の採用には3点押さえておきたいポイントがあります。

求める人物像を具体的に洗い出す

いざ面接・採用となっても求める人物像がブレては採用も思うように進みません。組織の理念やカルチャー、働く人との相性、どういう意向と特性を持った人物を採用すれば長期的に活躍するかを紙に書き出して具体化しましょう。

国籍を選定する

特定技能外国人の採用を考える際には、国籍の選定も重要です。文化、宗教、習慣や言語など、国によって異なる部分を理解し、どの国の人材が施設や事業所に適しているかを考慮する必要があります。

このように、施設ごとに適した国籍の人材を考慮することが大切です。

面接を設定

人物像と採用する国が決まればいざ面接です。有能で長期的に活躍する人物を採用するに当たって非常に大事な場面です。

面接では候補者本人の意向と特性を確認し施設側とマッチした方を採用することで、採用後のミスマッチを防げます。

もちろん、外国人の方も給料目当てで来られる方が多いですし、その考えを否定する訳にもいきません。しかし、給料とプラスして介護に対してどういった想いがあるのか、どういう性格かなど、相手の深層の考えを深堀りしてマッチした候補者を採用することが大事です。

人が足りないからと焦って採用するのでなく、じっくり候補者と面接して人材を見極めましょう。

また、オンライン面接も可能ですが、対面面接の方がおすすめです。

海外から招聘する場合ですと現地に行くのは大変かと思われがちですが、対面の方が人柄や熱意を感じ取りやすく、施設や事業所側の意向や考えも伝わりやすくなるメリットもあるためです。

時間と場所の問題が解決できるなら、対面での面接をおすすめします。

内定後の手続き

内定後には4点の手続きが必要となります。

協議会の加入

特定技能外国人を採用する施設や事業所は、介護分野における特定技能協議会への加入が義務付けられています。特定技能協議会は、特定技能外国人の受け入れに関する円滑な運営と適正な支援を目的とする組織です。

特定技能外国人の受け入れ状況を把握し、適正な運用や支援のために情報共有や協力を促進する役割を担っています。

事業所が特定技能協議会へ加入することで、関連団体と協力し特定技能外国人の適正な運用や支援の情報を得ることが可能になります。

なお現状として、当該協議会への加入は無料で、手続きもそこまで難しくありません。

支援計画書の作成

施設や事業所は特定技能外国人の支援計画書を作成し、出入国在留管理庁へ提出します。

支援計画書とは、特定技能外国人が円滑に職場に適応し、日本での生活を充実させるための支援計画を記載したものです。施設や事業所は作成した支援計画書の計画に基づき、特定技能外国人の支援をします。

支援業務には全部で10種類あり、それぞれに「義務的支援」と「任意的支援」の2つの種類が存在しています。

「義務的支援」はその名の通り、特定技能外国人の入社前後で必ず実施しなければならないものです。任意的支援は義務的支援に加えて、行うことが望ましいとされる支援を指します。

なお、特定技能外国人の支援計画書の作成ですが、登録支援機関に委託することも可能です。

※法務省「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成

入国前オリエンテーション

特定技能外国人が日本に入国する前に、オリエンテーションを行うことは義務的支援に含まれています。

入国前オリエンテーションは事前ガイダンスと呼ばれ、日本での生活や職場環境にスムーズに適応できるようにするためのものです。

事前ガイダンスは、施設や事業所との雇用契約締結後の在留資格認定証明書交付申請前か、在留資格変更許可申請前に行われます。対面もしくはテレビ電話等で行われ、内容は労働条件・活動内容・入国手続き・保証金徴収の有無など多岐に渡ります。

事前ガイダンスは特定技能外国人を雇用する受け入れ施設が実施しますが、登録支援機関への委託も可能です。委託する場合、すべての義務的支援について登録支援機関の支援が必要となります。

ビザの手続き

内定後は早めにビザの手続きを行いましょう。特定技能ビザの発行は施設や事業所に付随して発行されるため、外国人本人と施設や事業所が用意する書類がそれぞれ必要です。

必要書類をすべてそろえ、管轄の出入国在留管理局に持参し申請を進めることで、合法的に日本で働けるようになります。

書類に不備がなければ、おおよそ3ヶ月前後で出入国在留管理庁から許可通知または認定証明書が届きます

いざ来日!受け入れ時のポイント

いざ来日!受け入れ時のポイント

特定技能外国人が来日した後にも、受け入れるためのポイントがあります。

入国後のオリエンテーション

入国後に行われるオリエンテーションは生活オリエンテーションと呼ばれ、日本のルールやマナーの共有が目的です。オリエンテーション内容は多岐に渡り、ATMの使い方や交通ルール、災害発生時の情報収集の方法等があげられます。

日本で日常生活を送っていくために必要なことを、少なくとも8時間以上の時間をかけて行います。

また、事前ガイダンスと同様で、入国後に行う生活オリエンテーションも登録支援機関への委託が可能です。登録支援機構へ委託した場合は登録支援機関の支援が必要となります。

受け入れ後のケアについて

特定技能外国人を受け入れた後も、適切なケアが必要です。

ビザの更新

ビザの更新は忘れずに行いましょう。

特定技能1号の在留期間は通算で5年が上限となっており、在留資格の更新は1年・6ヶ月・4ヶ月ごとのいずれかです。在留期限の3ヶ月前から更新の申請ができます。

ビザ更新の審査には申請書類提出後、2週間〜3ヶ月ほど掛かります。万が一、在留期間が満了になってしまったとしても、申請さえ行っていれば特例として満了後2ヶ月は働くことが可能です。

しかし、審査には時間が掛かることを見越して、早めに準備を進めておくことをおすすめします。

夜勤も可能だが慣れるまでは丁寧にアドバイスを

介護分野の特定技能外国人は制度上、一人での夜勤が可能です。また、夜勤以外の交代制の勤務も任せられます。

特定技能は深刻な人手不足の解消を目的とした在留資格のため、基本的に日本人と同じ勤務形態・業務が可能です。

とはいえ、業務自体に慣れていない状態での夜勤は日勤と比べて精神的にも体力的にも辛いものがあります。特定技能外国人を夜勤に配置する場合は、日常業務を一人で対応できるようになったことを確認したうえで、他のスタッフと一緒に配置するところから始めてみましょう。

孤独にさせない 

特定技能外国人の支援において、孤独にさせないことが非常に大切です。

言葉や文化の壁から、特定技能外国人は孤独を感じることが考えられます。孤独からくるストレスや、不安や悩みを相談する相手がいないことは大きな負担となります。

そのため、日頃からコミュニケーションや定期面談を行うなど、信頼関係を築くよう心がけましょう。

信頼関係が築かれていると、特定技能外国人が孤独を感じにくくなり、不満が生じた場合でも早めに対処できるメリットがあります。

まとめ

「介護で特定技能外国人を採用したい」のまとめ

介護における特定技能外国人の採用について徹底的に解説してきました。人材不足の解消を目的に作られた特定技能は今やなくてはならない存在です。

本記事のポイントをまとめると次のとおりです。

・新しい文化や考えが流入することよるサービス向上
・転職は可能なのと特定技能2号は無い
・介護でもすべての分野で特定技能外国人を雇えるわけでない
・採用においては本人の意向と特性を捉えて採用することが大事
・内定後の手続きを終えたら他のメンバー同様、しっかりケア

言葉も習慣も異なる日本へ仕事をしに来日する特定技能外国人。海を渡って日本へ仕事に来るくらいですから職場でもアクティブに活躍する傾向にあります。

人材不足に悩んでいる施設や事業所の方は是非一度、採用を検討してみてはいかがでしょうか。