昨今、居酒屋やレストランなどの外食業界において、外国人労働者の採用が増えています。
その中で特定技能と呼ばれる在留資格を持った外国人が働いており、専門性や技能を生かした業務に従事しています。人材不足の日本において、飲食業に従事する特定技能外国人は貴重な戦力といえるでしょう。
特定技能外国人の採用にあたっては理解が必要なポイントが存在します。
そこで、今回は特定技能外国人を外食業界で採用するメリットや注意点、採用手続きについて詳しく解説します。
外食(飲食)業で特定技能外国人を採用するメリット
特定技能外国人を外食業界で採用するメリットは、大きく3つあります。
1つ目は、深刻な人手不足を解消できる点です。外食業界は特に人手不足が深刻な中、特定技能外国人の採用で人手不足の解消が見込めます。
2つ目は、インバウンド需要の対応です。、場所によっては多国籍のお客様への接客が求められる中、外国人としてそれぞれの文化や習慣を理解できるケースもあり、柔軟で適切な対応が期待できます。
また、国によってはしっかり話せる英語教育を受けているので、外国人の応対もスムーズでしょう。
3つ目は、外国人労働者は異なる文化や視点を持つ点です。飲食業にとって特定技能外国人のもたらす新たな視点や活気は売上に直結します。
お店のコンセプトにもよりますが、例えば特定技能外国人の視点で飲食店のメニューに変更を加えると、異文化を好むお客様や外国人旅行客からの満足度が向上します。
外食(飲食)業で特定技能外国人を採用する注意点
採用にはメリットだけでなく、デメリットや注意点も存在しています。
転職が可能
特定技能外国人は自ら職場を選べます。仕事に不満がある場合や他の業界へチャレンジする機会を見つけた場合に転職が可能です。
雇用主は長く働きたいと思える労働環境や相談しやすい環境を整えるなど、職場環境の整備に努めなければなりません。
従事不可の業務形態がある
外食業界の特定技能外国人には、従事不可の業務形態が存在します。「風俗営業」および「性風俗関連特殊営業」を営む営業所では、特定技能外国人の就労が禁止されています。
業務内容が飲食物調理、接客、店舗管理であっても就労不可となるため、注意が必要です。
特定技能外国人を受け入れる事業者に対して「風俗営業を営む営業所で就労させない」という条件が課せられています。
風俗営業とはキャバレーやスナック、ガールズバーなど、接待を伴う業務です。
風俗営業法の規定に基づくもので、風俗営業に低賃金で特定技能外国人を雇わせないために設定されています。
任せられる業務はよく確認すること
特定技能外国人には調理や接客、店舗管理といった業務を任せられます。
事業者は事前に具体的な業務範囲を確認し、特定技能外国人のスキルに合った仕事を与えなければなりません。
そこで以下に現在、外食において特定技能外国人を受け入れられる事業者・事業所について、管轄である農林水産省の資料を抜粋します。
付随業務でフードデリバリーは可能
特定技能外国人は業務内容の一つとして、フードデリバリーが可能です。あくまでも外食業の付随業務として可能なだけで、調理も接客もないデリバリーのみの業務には従事できません。
ホテル内のテナントにあるレストランでは就業可
ホテル内のレストランやカフェでの就労については配膳・調理業務のみであれば可能です。
ホテル内の外食業での就労が可能になったことにより、外食業界だけでなく観光業界とも連携しやすくなります。
外食(飲食)業における特定技能外国人の要件
特定技能外国人を採用するためには、一定の要件を満たす必要があります。特に日本語能力と業務に関する技能が重要です。
日本語能力に関する試験&技能試験に合格する
特定技能外国人が外食業に従事するには、日本語能力試験と技能試験の合格が必要です。
日本語能力試験は「日本語能力試験(N4以上)」または「国際交流基金日本語基礎テスト(200点以上)」どちらかの合格が必須です。
技能試験は学科と実技の2科目があります。試験内容は外食業の仕事について技能水準を確かめる内容となっています。
学科試験の目的は外食の業務に必要な日本語能力を測ることです。実技試験では正しい行動の選択と作業計画を立案する能力を測ります。
派遣は現状禁止(直接雇用)
外食業界において特定技能外国人の派遣雇用は現状禁止されています。雇用は直接雇用とし、フルタイムで業務に従事させなければなりません。
採用のポイント
特定技能外国人を採用する際には、採用プロセスの計画が非常に重要です。具体的には以下のステップを考慮する必要があります。
求める人物像を具体的に洗い出す
まずは、求める人物像を具体的に洗い出しましょう。
組織の理念や文化、働く人との相性、どのような意向と特性を持った人物を採用すれば長期的に活躍するか紙に書き出して具体化するのがおすすめです。
国籍を選定する
国ごとの文化的背景(文化・宗教・習慣等)や言語能力を考慮して、適切な国籍の候補者を選びましょう。
店舗の立地や利用客の傾向から、適した人材を考慮が大切です。
面接を設定
人物像と採用する国が決まれば面接を実施します。
面接では候補者の意向と特性を把握し、事業者の意向とマッチしているかを確認します。面接時点で意向をすり合わせ、採用後のミスマッチを防ぐために大切な作業です。
日本へ働きに出る外国人は給料目的の方が多いのも事実ですが、『日本の外食やおもてなし文化を学びたい』など熱い志を持って来る方も多くいらっしゃいます。
そこで給料とプラスして外食業に対する想い、考え方や性格など、相手の内面を深掘りして人材を選びます。人材不足だからと焦って採用せずに、面接を通して事業所に合った人材を見極めましょう。
面接はオンラインでも可能ですが、対面面接の方がおすすめです。
特定技能外国人は日本での職場が決まってから来日する方が多いため、オンライン面接の方が簡単です。しかし、対面面接の方が候補者の人柄や熱意を感じ取りやすく、事業者の意向や考えも伝わります。
時間と場所の問題が解決できるなら、対面での面接をおすすめします。
内定後の手続き
内定後には、4点の手続きが必要です。スムーズな受け入れ準備を進めるために、以下のステップを踏みましょう。
協議会の加入
特定技能外国人を採用する事業者は、特定技能協議会への加入が義務付けられています。
特定技能協議会は適正な労働環境の維持や外国人労働者の権利保護を目的とした組織です。
外食分野における特定技能協議会は「食品産業特定技能協議会」として農林水産省が中心となって設置されています。
特定技能協議会は加入した事業者に対し、特定技能外国人の受け容れに必要な制度や情報の周知を実施しています。
現状、当該協議会への加入は無料で、手続きも難しいものではありません。
支援計画書の作成
事業者は特定技能外国人の支援計画書を作成し、登録支援機関へ提出します。
支援計画書とは、特定技能外国人が円滑に職場に適応し、日本での生活を充実させるための計画を記載したものです。
支援業務には全部で10種類あり、それぞれに「義務的支援」と「任意的支援」の2つの種類が存在しています。
義務的支援はその名の通り、特定技能外国人の受け入れ後、必ず実施するものです。任意的支援は義務的支援に加え追加で対応が望ましいとされる支援を指します。
例えば「公的手続き等への同行」の義務的支援は、必要に応じて所属機関や住居地、社会保障・税に関する届出への同行です。
任意的支援は、国民健康保険や国民年金など、外国人本人が手続きをするものへの同行があげられます。
入国前オリエンテーション
入国前オリエンテーションは義務的支援の一つです。支援業務の事前ガイダンスにあたります。
事前ガイダンスの目的は、日本での生活や職場環境にスムーズな適応とされています。
事業者は雇用契約締結後の在留資格認定証明書交付申請前か、在留資格変更許可申請前に実施しましょう。対面またはオンラインで行い、内容は労働条件・活動内容・入国手続き・保証金徴収の有無など多岐に渡ります。
事前ガイダンスは特定技能外国人を雇用する受け入れ施設が実施しますが、登録支援機関への委託も可能です。
ビザの手続き
内定後はビザの手続きを進めましょう。特定技能ビザの発行は施設や事業所に付随して発行されます。
申請には外国人本人と事業者が用意する書類がそれぞれ必要です。必要書類をそろえたら、管轄の出入国在留管理局に持参し申請を進めましょう。
申請が受理されると、特定技能外国人として合法的に日本で働けるようになります。
書類に不備がなければ、混み具合にもよりますが3ヶ月前後で出入国在留管理庁から許可通知または認定証明書が届きます。
いざ入国!受け入れ時のポイント
特定技能外国人が来日した後にも、受け入れるためのポイントがあります。
入国後のオリエンテーション
入国後には生活オリエンテーションが実施されます。
生活オリエンテーションの目的は日本のルールやマナーの共有で内容は多種多様です。
ATMの使い方や交通ルールなど、日本で生活を送る中で必須となる事項を8時間以上の時間をかけて共有します。事前ガイダンスと同様に、入国後に行う生活オリエンテーションも登録支援機関への委託が可能です。
受け入れ後のケアについて
特定技能外国人を受け入れた後も、適切なケアが必要です。
残業に対するケアを
自国でなく日本まで出かけて働こうとする外国人ですので、中には深夜残業を率先して行う方もいらっしゃいます。
とはいえ、体調やストレスケアのためにも日本人スタッフ同様、特定技能外国人を長時間働かせないようにする工夫も必要です。
無理な残業は可能な限り避けるように指導し、残業が発生した場合もコミュニケーションを取り、無理なく働いているか確認することを心がけましょう。
顧客とのトラブルが起こらないように配慮する
異なる文化や宗教、価値観などバックグラウンドの違いは、場合によって顧客とのトラブルを引き起こします。
ビジネスマナーや研修、接客ロールプレイングを通して、母国と日本の顧客対応の違いを特定技能外国人の方に認識してもらいましょう。
しっかりと教育を施せば、多くのトラブルは未然に防止できます。
ビザの更新
ビザの更新も忘れずに行いましょう。
特定技能1号の在留期間は通算で5年が上限です。在留資格の更新は1年、6ヶ月、4ヶ月ごとに行われ、在留期限の3ヶ月前から更新申請ができます。
ビザ更新の審査は申請書類提出後、早くても2週間、遅ければ3ヶ月ほど時間が掛かります。万が一、書類を提出しても更新が間に合わず在留期間満了日になってしまった場合は2ヶ月間は元の在留資格の継続が可能です。
しかし、故意に満了日近くに更新を申請することは許されていません。早めに準備を進めておきましょう。
特定技能2号を目指す
特定技能2号を目指すことによって、特定技能外国人のモチベーションが変化します。特定技能1号から2号へ移行すると得られるメリットが大きく2つあるためです。
1つ目は、在留期間の上限が撤廃される点です。1号の在留期間は最長5年とされています。しかし、2号では3年、1年、6ヵ月ごとの更新は必要
ですが、在留期間の上限が撤廃されます。要件を満たせば家族の帯同も可能です。
2つ目は、仕事内容の変更です。
2号になると外食業全般の業務について店舗をトータルで管理できます。特定技能外国人自身が店舗の経営分析や管理、契約に関する事務を担える可能性が広がります。
特定技能2号を取得するには「外食業特定技能2号技能測定試験」と「日本語能力試験(N3以上)」両方の合格が必要です。さらに、食品衛生法の営業許可を受けた飲食店での実務経験が大切です。
特定技能2号を取得するためには日頃から日本語能力を上げる努力が必要です。同時に、外食業として実務経験を積み重ねましょう。
まとめ
外食分野における特定技能外国人の採用について徹底的に解説してきました。
本記事のポイントをまとめると次のとおりです。
・新しい文化や考えの流入によるサービス向上
・転職は可能なのと従事不可の業務形態がある
・付随業務としてフードデリバリーが可能
・特定技能外国人の意向と特性を捉えて採用する
・内定後の手続きや受け入れ後のケア
自国ではなく、言葉も習慣も異なる日本へ仕事をしに来日する特定技能外国人。熱意と想いを持って仕事する人も多く、人手不足の解消とともに戦力となるケースも多いです。
そこで、人材不足に悩んでいる事業者の方は一度、特定技能外国人の採用を検討してみてはいかがでしょうか。