日本国内では、少子高齢化による労働力不足が深刻化しており、様々な産業分野で外国人材の受け入れが不可欠となっています。このような状況の中、2019年4月に創設された在留資格「特定技能」は、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることで、人手不足の解消に貢献する制度として注目されています。
特に、カンボジアは日本と友好的な関係を築いており今後、特定技能制度を活用して人材受け入れの重要性が増すと考えられている国の一つです。
本記事では、カンボジアから特定技能外国人を受け入れる際のポイントを、二国間協定や登録証明書を含む採用の流れに沿って詳しく解説します。この記事を読むことで、カンボジアからの特定技能人材の採用に関する疑問や不安を解消し、スムーズな受け入れを実現するためのお役に立てれば幸いです。
カンボジアの概況
カンボジア王国は、東南アジアのインドシナ半島に位置する国です。日本との関係も深く、経済協力や文化交流が盛んに行われています。
カンボジアの人口は約1720万人で、近年人口は増加傾向にあります。人口の約90%はカンボジア人、いわゆるクメール人が占めています 。母国語はカンボジア語です。
注目すべき点は、カンボジアでは15歳から59歳の労働力人口の割合が2008年の60%から2019年には61.7%に増加していることです。人口ピラミッドを見ても、若年層が多く、今後も労働力の豊富な状況は続きそうです。

引用:PopulationPyramid.net「カンボジアの人口ピラミッド2022年」
高齢化が進む日本において、若年層の割合が高いカンボジアは、労働力不足を補う上で重要なパートナーとなり得ることがデータを見てもわかります。
特定技能制度とは?特徴と試験について
「特定技能」は、日本国内の人手不足解消を目的とした在留資格で、即戦力となる外国人材の受け入れを可能にする制度です。
特定技能1号と2号の違い
特定技能には1号と2号があります。日本に特定技能1号として入国し、経験を積んだ外国人が試験を経て特定技能2号としての在留資格を得る流れです。詳細は以下の通り表でまとめています。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 通算5年 | 更新回数の上限なし |
家族の帯同 | 不可 | 一定の条件下で配偶者や子供などの家族の帯同が認められる |
技能水準と試験要件 | 基本的な技能水準と日本語能力を証明するための試験合格 | より高度な専門知識や技能を証明するための技術試験 |
支援 | 受け入れ機関・登録支援機による支援の対象 | 受け入れ機関・登録支援機による支援の対象外 |
特定技能の対象分野や仕事内容については、出入国在留管理庁のホームページに最新の制度情報が出ておりますのでご参照ください。
特定技能1号の在留資格を得るための試験とは?

特定技能では、日本の企業で即戦力として働けるスキルを求めています。スキルの証明として「日本語能力」と「技能評価試験」の二つの試験の合格が必要です。
日本語能力試験
日本語能力を測る試験としては、日本語能力試験(JLPT)と国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)があります。
原則として、日本語能力試験のN4以上または国際交流基金日本語基礎テストの合格が必要です 。
ただし、分野によってはより高いレベルが要求される場合があり、例えば自動車運送業分野では、バス・タクシー運転者はN3以上が求められます 。
参考:特定技能における「自動車運送業」分野の特徴と採用から就業までの流れについて解説
日本語能力試験はN1からN5までのレベルがあり、N4は基本的な語彙や文法を理解し、簡単な日常会話ができるレベルとされています。試験では、言語知識(文字・語彙・文法)、読解、聴解の能力が測られます 。
一方の国際交流基金日本語基礎テストにレベル区分はなく、総合得点が判定基準点(250満点中200点)以上で合格すると「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力」(A2レベル)があると判定されます。
介護分野においては、上記に加えて介護日本語評価試験への合格も求められます 。この試験は、介護現場で必要な基本的な日本語を理解し、コミュニケーションができるレベルを評価するものです。
参考:日本語能力試験 海外の実施都市・実施期間一覧
参考:国際交流基金日本語基礎テスト 日本国外の試験会場
技能評価試験
技能評価試験は、各特定産業分野ごとに、その業務に必要な技能を評価するために実施されます。
試験は各分野の所管省庁が定める試験機関によって実施され、筆記試験と実技試験(またはペーパーテスト形式の実技試験)で構成されることが多いです。
試験内容は、各分野の業務に必要な専門知識や技能を評価するもので分野ごとに異なる試験内容となっています 。
分野ごとに特化した技能評価試験を実施することで、企業は求めるスキルを持つ人材を確実に採用できます。試験は日本国内だけでなく、海外でも実施されています。
参考:特定技能に関する試験情報
日本で技能実習2号を良好に修了している場合
技能実習2号を良好に修了している場合は、一定のスキルと日本語能力を持つと考えられるため、日本語能力試験と、技能実習を修了した分野での技能評価試験が免除されます。
異なる分野への移行を希望する場合は、技能評価試験の合格が必要となりますが、この場合でも日本語能力試験は免除されます。
カンボジアとの二国間協定とは?

日本は、特定技能制度に基づき外国人労働者を円滑かつ適正に受け入れるため、労働者の送出し国と二国間協定を締結しています。カンボジアもその一つであり、両国間で協力覚書(MOC)が締結されています 。
二国間協定の目的
カンボジアとの二国間協定は、特定技能制度に基づき、カンボジアからの労働者の円滑かつ適正な送出し・受入れを確保することを目的としています 。この協定により、労働者の権利保護、不法就労の防止、送り出し機関の適正化などが図られます。
カンボジアとの二国間協定の手続きの特徴
カンボジアとの二国間協定に基づき特定技能外国人を受け入れる場合、採用活動はカンボジア政府が認定した送り出し機関を通じて行います。日本での就労に関する情報提供や事前ガイダンスがカンボジア国内で実施されます。
送り出し機関とは?
送り出し機関とは、日本での就労を希望する人材の募集、選考、日本語教育、技能訓練などをカンボジア国内で実施する機関です。また、日本の受け入れ機関とのマッチングを行い、渡航手続きやビザ申請のサポートなども実施します。
送り出し機関は、現地での人材発掘から教育、渡航手続きまでを代行してくれるため、日本企業は手間を省き質の高い人材を確保できる可能性があります。
特定技能1号としてカンボジアから受入れる場合
カンボジアから特定技能1号の在留資格で、外国人を受け入れる場合の流れと手続きは以下の通りです。
カンボジアの送り出し機関と契約
日本の受け入れ機関が、カンボジアの送り出し機関を通じて人材を募集・選考します。
雇用契約の締結
採用する人材が決まったら、受け入れ機関と候補者で雇用契約を締結します。契約書には、業務内容や報酬、労働時間など労働条件や、支援内容を記載します。労働条件は日本の労働基準法に沿って作成しますが、トラブル防止のために、母国語であるカンボジア語も併記したものを用意します。
登録証明書の発行申請・取得
カンボジアから特定技能外国人を受け入れる際には、カンボジア政府が発行する登録証明書が必要となります。この登録証明書は、正規の手続きを経て日本に渡航する労働者であることを証明するものであり、日本での在留資格申請時に提出が求められることがあります。
登録証明書はカンボジア政府認定の送り出し機関を通じて、カンボジア労働職業訓練省に対して申請します。
以下が、登録証明書のひな型です。

参考:カンボジアに関する情報
協議会への加入
協議会は、特定技能外国人の受入れに関する情報提供やサポートを行う日本の組織です。受け入れ機関である企業は、特定技能外国人を受け入れる各分野の協議会に加入義務があります。
特定技能外国人の在留資格の申請時に協議会の加入証を提出しなくてはならないため、採用決定後すみやかに加入申請を行うと良いでしょう。
在留資格認定証明書の交付申請
海外から日本に特定技能として来日するための在留資格認定証明書の交付申請を行います。
申請書類は多岐にわたるため、事前に必要なものを確認し、漏れのないように準備することが重要です。書類に不備があると審査に時間がかかったり、不交付となる可能性もあるため、行政書士等の専門家に依頼することが一般的です。
在留資格認定証明書が交付されたら、原本をカンボジアの特定技能候補者へ郵送もしくはメール送付します。
ビザ(査証)発給申請
ビザの発給申請は、カンボジアの日本大使館または領事館にて行います。在留資格認定証明書を日本大使館に提示し、特定技能ビザの発給を受けます。
事前ガイダンス
特定技能外国人として雇用されるカンボジア人に対し、出国前に事前ガイダンスを実施します。上記の手続きを経て、「特定技能」の在留資格で就職することが可能となります。
日本在住のカンボジア人を特定技能1号で採用する場合

すでに日本に滞在中のカンボジア人を採用する場合は、以下のような流れになります。
採用活動と雇用契約の締結
日本国内に在住しているカンボジア人(留学生、技能実習生など)に対して特定技能の求人情報を告知し、採用選考を行います。
選考に合格した候補者は、海外からの採用と同様に、日本語能力試験と技能評価試験に合格する(または技能実習2号を修了している)必要があります。
登録証明書の発行を申請・取得
日本に滞在しているカンボジア人に対し企業が直接採用活動を行ったとしても、特定技能外国人として働く場合にはカンボジア政府が発行する登録証明書が必要です。
カンボジア政府認定の送り出し機関を通じて登録証明書の発行を受けることで、正規のルートで送出された労働者であることが証明され、受け入れ企業は安心して雇用手続きを進めることができ、労働者自身も法的な地位が保障されます。
在留資格変更許可申請
現在持っている在留資格から特定技能1号への在留資格変更許可申請を地方出入国在留管理局に行います。
在留資格が変更許可されたら、雇用契約に基づき就労の開始です。
日本在住者からの採用は、海外からの採用に比べて入国手続きが不要であるため、比較的スムーズに進む可能性があります。すでに日本での生活に慣れているため、入国手続きや初期の生活支援の負担も軽減されると考えられます。
カンボジアから特定技能外国人を採用する際の費用
カンボジアから特定技能で採用する際の費用をまとめると以下の通りです。
求人・採用にかかる人材紹介・仲介費用 | 人材紹介会社や日本の登録支援機関を利用する場合の費用 | 30~50万円 |
登録証明書発行費用 | カンボジアの認定送り出し機関への手数料 | 15万円前後 |
ビザ申請費用 | 特定技能ビザの取得費用 | 10~15万円前後 |
渡航費 | 日本への航空券代、健康診断の費用 | 5万円~10万円(時期や航空会社により変動あり) |
住居費用 | 寮を提供する場合の、家賃や設備費用 | 地域による |
教育訓練・支援費 | 事前ガイダンスや日本語研修を実施するときの費用 | 人数による |
月々の支援委託費 | 登録支援機関へ支払う費用 | 1人あたり月2~3万円 |
これらの費用はあくまで参考価格です。実際の金額は地域や企業、また提供される支援内容によって変わることがあります。
費用を企業側と労働者側のどちらが負担するのかは、雇用契約の中で明確に決めておくことが大切です。
特定技能外国人の採用にあたっては、国や地方自治体で補助金や助成金の支援を受けられる場合がありますので、該当する支援策があるかどうか、事前に確認しておきましょう。
転職を防ぐには
せっかく採用した特定技能外国人が早期に転職してしまうことは、企業にとって大きな損失です。転職を防ぎ、長期的に活躍してもらうためには、良好な労働環境の整備が不可欠です。
適切な労働時間と休日を確保し、安全で衛生的な職場環境を提供することはもちろん、コミュニケーションを支援して働きやすい職場づくりを心がけましょう。
職場内外での支援の提供
外国人労働者が安心して日本で生活し、働くためには、職場内だけでなく、職場外での支援も重要です。
国が定める支援計画にそって、入国直後には、住居の確保や生活必需品の準備、各種手続き(住民登録、銀行口座開設、携帯電話契約など)のサポートを行いましょう 。日本の生活習慣やマナーに関する情報提供や、日本語学習の機会を提供することも、日本でスムーズに生活し、働いていくために必要です。
また、仕事や生活に関してする相談できる環境を整備し、問題が起こったら対処できる仕組みは作っておくとよいでしょう。
登録支援機関の活用
特定技能1号の外国人に対しては、国が定める支援計画に沿った対応が雇い入れる企業側に義務付けられています。しかしこの支援を自社で行うことが難しい場合、出入国在留管理庁に登録された登録支援機関に委託することができます 。
登録支援機関は、企業にとって効率的な採用活動を支援する重要なパートナーです。
受け入れ機関に代わって、特定技能外国人に対する支援計画を作成・実施し、生活オリエンテーション、住居確保、日本語学習支援、相談対応、行政手続きのサポートなど、多岐にわたる支援を提供します 。
登録支援機関を活用することで、受け入れ機関の負担を軽減し、専門的な支援を提供することが可能になるでしょう。特に中小企業など、外国人支援のノウハウや人材が不足している場合、登録支援機関の活用は非常に有効な手段となります。
受け入れ機関と登録支援機関が緊密に連携し、外国人労働者をサポートすることで、より効果的な支援が実現でき、転職のリスクを軽減させることも可能です。
参考:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜
特定技能外国人の長期的なキャリア構築を支援
特定技能外国人には、日本での長期的なキャリア構築を支援することも重要です。特定技能1号から2号へのステップアップを促したり 、長期的なキャリア目標を設定するサポートを行うことは、外国人労働者のモチベーションを高め、長期的な定着に繋がります。
日本人の従業員同様、将来の目標が見えることで、外国人労働者は日々の業務に意欲的に取り組み、スキルアップにも励むようになるでしょう。
業務に必要な専門知識や技能向上のための研修機会を提供したりすることも、外国人労働者の成長を支援し、企業にとっても有益です。
特定技能2号への移行を支援することも、長期的な人材確保と定着に大きく貢献します。試験に関する情報提供や対策支援を行ったり 、必要な実務経験を積む機会を提供することも外国人の方にとってはモチベーションに繋がるはずです。
まとめ

カンボジアからの特定技能外国人受け入れによって、企業の労働力不足解消に貢献することが期待できます。受け入れにあたっては、制度の理解と同時に二国間協定の内容、送り出し機関の選定、費用、そして外国人労働者への適切な支援体制の構築が重要です。
支援体制を整えるのに登録支援機関は大きな力になります。本記事で解説したポイントを踏まえ、信頼できる登録支援機関のサポートを受けながらカンボジアからの特定技能人材の受け入れを検討してみてはいかがでしょうか。