日本は少子高齢化の影響により、さまざまな産業で深刻な労働力不足に直面しています。そこで日本政府は特定技能制度を導入し、労働力不足を解消する目的で外国人労働者の受け入れを積極的に推進しています。

フィリピンは、特定技能での労働者を日本に多く送り出す国の一つです。当記事では、フィリピンから特定技能労働者を受け入れるときの採用手続きの流れ、メリットや費用などについて詳しく解説します。

当記事を読めば、特定技能ビザを持つフィリピンの方を雇うにあたり押さえるべきポイントが理解できますので、最後までお付き合いください。

フィリピンの概況

フィリピンの概況

フィリピンは東南アジアに位置する群島国家で、約7,600の島々から構成されています。熱帯気候に属しており、乾季・暑季・雨季の三つの季節に分けられ、年間を通じて高温多湿です。

人口は約1億1,150万人で、その多くがキリスト(カトリック)教徒です。また、フィリピンは多言語国家で、英語とフィリピノ語(タガログ語)が公用語として広く使用されています。

公用語の英語、フィリピノ語以外では中国語、スペイン語などと並び日本語も人気が出てきているようです。フィリピンの大学では第二外国語の授業で日本語を採用し、日本人が日本語を教えている大学も増えてきています。

フィリピンでは経済成長が進む一方で、多くのフィリピン人が海外で働くことを希望しており、日本を含む多くの国へ労働者を送り出しています。フィリピンから特定技能制度を活用した日本への就労希望者も近年増加の傾向です。

フィリピンからの特定技能労働者受け入れのメリット

日本の労働市場において、特定技能労働者としてフィリピン人を受け入れることにはさまざまなメリットがあります。

労働力不足の解消

メリットの1つ目は、労働不足の解消です。

人手不足が深刻な分野では、日々の業務を支える人材の確保が急務となっていますが、フィリピンには多様な産業において豊富な経験を持つ人材が多く、さまざまなスキルを持った労働者が日本での就労を希望しています。

フィリピン人を特定技能労働者として受け入れることで、即戦力として現場で活躍してもらうことが期待されます。

英語が共用語でコミュニケーションを取りやすい

フィリピンでは英語が公用語として広く使用されており、多くのフィリピン人が流暢な英語を話すことができます。英語は日本でも伝わりやすい言語であり、他言語に比べて業界・業種によっては言語の壁を乗り越えやすいでしょう。

フィリピン人のホスピタリティ

フィリピン人は温かく、フレンドリーで、ホスピタリティ精神に富んでいることで知られています。特に介護や接客業など、人とのコミュニケーションが求められる分野で適性がある人材も多く、そのホスピタリティ精神が大いに発揮されます。

特定技能ビザの種類と取得条件

特定技能ビザを取得するためには、いくつかの具体的な要件を満たす必要があります。以下で特定技能ビザの種類と具体的な取得条件を説明します。

特定技能1号と2号の違いを押さえる

日本における特定技能制度は、外国人労働者が一定の分野で日本の労働力として活躍するための在留資格です。この制度は、特定技能1号と特定技能2号という2種類の資格に分かれており、それぞれに明確な違いがあります。

特定技能1号特定技能2号
在留期間通算で5年上限なし
家族の帯同不可一定の条件下で配偶者や子供などの家族の帯同が認められる
技能水準と試験要件基本的な技能水準と日本語能力を証明するための試験合格より高度な専門知識や技能を証明するための技術試験

特定技能1号と2号で対象分野はほぼ同じですが、介護分野は特定技能1号の次の在留資格として「介護」があるため現状、2号の対象外です。

なお、特定技能の対象分野は変更もありますので、詳しくは出入国管理庁のHPをご覧になられるとよいでしょう(1号はこちら、2号はこちらです)。

参照:「特定技能とは?〜1号・2号の在留資格を含めわかりやすく解説〜

ビザ取得の具体的要件

日本語能力試験

特定技能1号ビザを取得するための要件の一つは、日本語能力試験に合格することです。

具体的には、「日本語能力試験(JLPT)N4レベル以上」もしくは「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」の合格が求められます。これは日常会話ができる程度の日本語能力を示すものであり、労働環境で基本的なコミュニケーションが取れるレベルです。

日本語能力試験はフィリピン国内でも数か所の都市で実施されており、N1~N5のテストレベルで受験できます。

参考:マニラ日本文化センター

技能評価試験

特定技能1号ビザを取得するためには、就業予定の分野における技能評価試験に合格していなければなりません。これは、特定の業種で必要とされる技能を評価するものであり、各分野ごとに異なる試験が実施されています。

技能評価試験は国内外で行われており、フィリピンでも各種分野の試験が行われています。

参考:特定技能総合支援サイト 特定技能に関する試験情報

技能実習2号を良好に修了した場合

技能実習2号を良好に修了した場合、特定技能1号のビザを取得するための日本語能力試験と技能評価試験が免除されます。技能実習2号での実績が評価され、一定の技能と日本語能力が確認されているとみなされるためです。

これにより、技能実習2号を修了した外国人労働者がよりスムーズに特定技能ビザを取得し、日本での就労を続けることができるようになっています。

技能実習を行った分野と違う分野で特定技能として働きたい場合は、働きたい分野で改めて技能評価試験を受けて合格すると、特定技能として就職が可能です。この場合でも、日本語能力試験については免除されます。

フィリピン人を特定技能外国人として採用するときの流れ

フィリピン人を特定技能外国人として採用するときの流れ

送り出し機関との契約

フィリピンから特定技能外国人を受け入れるときは、フィリピン政府から認定を受けた現地の送り出し機関から人材を紹介してもらう必要があります。

受入れ企業と送り出し機関とで、まずは人材募集・雇用に係る募集取決め(Recruitment Agreement)を締結します。送り出し機関の主な役割は、適切な候補者の選定や書類の準備です。

MWO(旧POLO)への書類提出

契約を結んだ後、企業はフィリピンのMWO(旧POLO: Philippine Overseas Labor Office)に必要な書類を提出します。

MWOは労働条件や契約内容を確認し、労働者の保護を確保するための役割です。

MWOへの書類提出が完了した後審査が通ると、受入れ機関の代表者または従業員は、MWOで労働担当官による英語での面接を受けます。この面接で通訳を同席させることは可能です。

その後、必要に応じてMWOによる受入機関への実地調査が実施されることがあります。

DMW(旧POEA)への登録

受入れ機関が適切だと判断されると、MWOから認証印が押印された提出書類と推薦書が企業に送られてきます。

次に、この書類一式をフィリピンのDMW(旧POEA: Philippine Overseas Employment Administration)に提出し、雇用主として登録しましょう。

DMWはフィリピン労働者の海外派遣を監督する機関であり、登録手続きが完了することで、企業はフィリピンでの採用活動をスタートさせることができるようになります。

雇用契約の締結

送り出し機関は、MWOに登録された求人・求職票をもとに人材を募集し、受け入れ期間である企業に人材紹介を行います。面接を経て採用が決定したら、企業が次に行うのはフィリピンの労働者との正式な雇用契約締結です。

雇用契約には、労働条件、給与、勤務時間、福利厚生などが明記され、労働者と企業双方が署名することで法的効力を持ちます。

協議会への加入

特定技能外国人を受け入れる企業は、出入国在留管理庁へ在留資格の申請前に、関連する分野の協議会へ加入することが義務付けられています。

協議会は、特定技能外国人の受け入れに関する情報提供やサポートを行っています。

在留資格申請・ビザ(査証)の発給

雇用契約が締結された後、企業は必要書類を揃えて、日本の出入国在留管理庁に対して在留資格認定証明書の交付申請を行います。

在留資格を満たすかどうかの審査を経て、在留資格認定証明書が交付されます。交付後証明書を送付して、フィリピンの日本大使館でビザ(査証)の発給手続きを行ってもらいましょう。

入国前オリエンテーション・健康診断

ビザが発給された後、労働者はフィリピン国内で入国前オリエンテーションを受ける必要があります。

オリエンテーションでは、日本での生活や労働に関する情報が提供されます。また、健康診断も行われ、労働者の健康状態が確認されます。

OEC(海外雇用許可証)の発行

次に、労働者はDMWからOEC(Overseas Employment Certificate: 海外雇用許可証)を取得する必要があります。

OECはフィリピン人労働者が合法的に海外で働くための証明書であり、フィリピン空港での出国手続きにも必要です。

フィリピン出国・日本入国

すべての手続きが完了したら、労働者はフィリピンを出国し日本に入国します。

日本到着後、企業は労働者を迎え入れ必要なサポートを提供します。

日本在住のフィリピン人を採用するときの流れ

日本在住のフィリピン人を採用するときの流れ

日本在住のフィリピン人を特定技能外国人として採用する場合も、フィリピンから受け入れる時の手続きと同様の手続きをいくつかしなければなりません。

その後に、日本国内に在留中の外国人を対象とした手続きを経る必要があります。以下にその具体的な流れを説明します。

フィリピンから受け入れる時との共通事項

日本国内でフィリピン国籍を持つ労働者を特定技能外国人として受け入れようとする場合も、フィリピン国内の送り出し機関との契約が必要です。また、MWO・DMWへ登録をします。

雇用契約の締結と協議会への加入までは、フィリピンから迎え入れる場合と共通の手続きになります。

在留資格変更許可手続き

日本在住のフィリピン人が既に他の在留資格で日本に滞在している場合、特定技能への在留資格変更手続きを行います。

特定技能として在留資格が許可されると、受け入れ企業で就労する「指定書」と新しい「在留カード」が発行されます。

面接時のポイント

フィリピン人労働者を特定技能外国人として採用する際の面接は、採用プロセスの中でも重要なステップです。以下に、面接時に重視すべきポイントを説明します。

自社とのマッチング

面接時には、候補者が自社の求めるスキルや価値観にどれだけマッチするかを確認することが重要です。特定技能外国人の持つ経験や技術力は自社の業務に合致するのか、具体的な業務内容を説明し質問を通して理解度を測りましょう。

応募者の過去の職務経験やスキルと、自社の業務内容との共通点や相違点についても明確になると、実際の業務に就いた時のミスマッチが少なくなります。

また、協調性、責任感、積極性など、自社の求める人物像に向いているかは、過去の経験や具体的なエピソードを質問し、人柄や価値観を把握するとよいでしょう。

日本語能力

日本語能力は、職場でのコミュニケーションの円滑さに直結します。面接中に日本語での会話を行い、日常業務に必要な日本語の会話力を確認します。

以上のポイントを念頭に置きながら面接を行うことで、フィリピン人求職者の適性や日本語能力をしっかりと評価し、自社にとって即戦力となる人材を採用することができます。

受け入れ後のサポート

外国人労働者を受け入れた後のサポートは非常に重要です。労働者がスムーズに業務に適応し、安心して働くためには、適切なサポート体制を整えることが求められます。

支援計画書に沿ったサポート

受け入れ後のサポートには、事前に作成した支援計画書に基づく支援が含まれます。

支援計画書には、労働者の生活や職場での適応を支援するための具体的な計画が記載されており、例えば住居の確保、日本語の研修、日本人との交流促進、面談実施の時期などです。

計画に基づいた支援を行うことで、労働者が新しい環境に迅速かつ円滑に適応できるようになります。

登録支援機関の活用

外国人労働者の受け入れ後のサポートには、登録支援機関の活用が有効です。

登録支援機関は、主に特定技能外国人材の支援を行う機関です。専門的な知識と経験を持ち、労働者の生活や業務に関する多岐にわたるサポートを提供します。生活相談、健康管理、職場でのトラブル対応なども支援範囲です。

登録支援機関を活用することで、受け入れ企業や労働者自身が抱える課題に対して、的確なアドバイスや解決策を得ることができます。

特定技能外国人支援計画書の作成と実施も委託ができます。企業独自の支援体制を整えるのが難しい場合は、登録支援機関に委託すると企業の負担が軽減するでしょう。

参考:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜

1号特定技能外国人のキャリアプラン

1号特定技能外国人のキャリアプランを考えることも重要です。

特定技能1号は5年間、特定技能2号になると制限なく日本に滞在できます。受け入れ後の長期的な視点で、労働者がどのように成長し、キャリアを築いていくかをサポートすることが求められます。

例えば、定期的なスキルアップ研修やキャリアカウンセリング、技能試験への支援などを提供することで、離職せず長期的に働いてもらえる可能性が高まるでしょう。

労働者が自分の将来に希望を持ち、モチベーションを高めることができるような環境を整えることが重要です。

フィリピンから特定技能外国人を雇うにあたっての費用

フィリピン人を特定技能外国人として採用する際には、初期費用と毎月のサポート費用が必要です。

人材紹介・仲介費用現地の送り出し機関や日本の登録支援機関を利用する場合の費用30~50万円
ビザ申請費用特定技能ビザの取得費用10〜15万円前後
渡航費日本への航空券代、健康診断の費用5〜10万円前後
住居費用寮を提供する場合の、家賃や設備費用地域による
教育訓練・支援費事前ガイダンスや日本語研修を実施するときの費用人数による
月々の支援委託費登録支援機関へ支払う費用1人あたり月2~3万円

特定技能外国人を雇用した企業に対して、国や自治体で補助金や助成金を提供している場合があります。一度、使えそうな補助金等がないか確認してみるとよいでしょう。

まとめ

まとめ

この記事では、特定技能制度を利用したフィリピン人労働者の受け入れについて、手続きの流れから受け入れ後のサポートまで詳しく解説しました。

一見、複雑に思える採用プロセスも、適切な準備を行うことでスムーズに進めることができます。企業にとって頼りになるのが登録支援機関の存在です。企業と特定技能外国人双方のサポートができる登録支援機関をうまく活用すると、採用の負担は大幅に軽減します。

フィリピン人労働者は、勤勉で高いスキルを持つ人材が多く、日本の労働市場において貴重な戦力となるでしょう。特定技能制度を積極的に活用することで人材不足の解消だけでなく、ひいては企業の競争力強化にもつながる可能性がありますので、ぜひ検討されるとよいです。