人手不足が深刻化する日本において、労働力の確保として重要な選択肢となっているのが特定技能外国人の採用です。なかでもネパールからの人材は、適応力と仕事へのモチベーションの高さから注目を集めています。本記事では、ネパール人を特定技能制度で受け入れる際のメリットや手続きの流れ、費用などについて詳しく解説します。

この記事を読むことで、採用のためのポイントを押さえられますので、ぜひ最後までご覧ください。

ネパールの概況

ネパールは南アジアに位置する国で、北側には世界最高峰のエベレストを含むヒマラヤ山脈、南側にはインドとの国境となる平野部(タライ地域)が広がっています。国土面積は約14.7万平方キロメートルで、日本の約40%に近い大きさです。

民族的には非常に多様で、主要なネパール系民族のほか、チベット系、インド系など100以上の民族が共存しています。こうした多民族環境で育つため、ネパール人は異文化への適応力が高いという特徴を持っているのです。

宗教別人口比率は、ヒンドゥー教徒が約80%、仏教徒が約9%、イスラム教徒が約4.4%、キリスト教徒が約1.4%などとなっています。多宗教国家として、お互いの信仰を尊重しながら、調和して共存しているのも特徴の一つです。

ネパール語が公用語ですが、教育を受けた若者を中心に、特に都市部で英語によるコミュニケーションが可能です。日本語教育も近年普及しており、首都カトマンズを中心に日本語学校が増加しています。日本での就労や留学を目指す若者が日本語を学ぶケースが多く、基礎的な日本語コミュニケーション能力を身につけた人材が増えています。

ネパール人を特定技能で受け入れるメリット

若い労働力の確保

ネパールの人口は約3,000万人で、平均年齢は約24歳と非常に若い国です。人口の約40%が25歳未満という若年層の多さが特徴で、これが労働力の豊富さにつながっています。

ネパールの人口ピラミッド

引用:PopulationPyramid.net「ネパールの人口ピラミッド2022年」

ネパール人は日本に対して非常に好意的なイメージを持っており、日本での就労を希望する若者も多いです。ネパールから技能を持った優秀な若者を特定技能として迎えることで、若い労働力の確保が可能となります。

高い労働意欲

ネパールは経済発展途上国であり、多くの若年層が職を求めて海外に働きに出ています。特に、日本の労働市場は賃金が高く、安定した雇用条件であることから、ネパールからの労働者にとって魅力的です。そのため日本での仕事に対するモチベーションや働き続ける意欲も高いといえます。

ネパール政府を通して安全で効率的な求人が可能

ネパール政府を通して安全で効率的な求人が可能

ネパール政府は海外就労を国の重要な政策として位置づけており、外国人労働者の保護と支援に積極的です。日本とネパールの二国間協定により、政府間での人材送出し・受入れの枠組みが整備されているため、公的ルートを通じて安全で効率の良い採用が可能です。

そもそも特定技能制度とは?種類や特徴と取得条件

特定技能制度は、日本が外国人労働者を受け入れるために2019年に新設した在留資格制度で、特定の業種において労働力を補充することを目的としています。この制度には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つのカテゴリーがあり、「特定技能1号」が主に外国人労働者の受け入れ対象です。

特定技能1号と2号の違い

特定技能には1号と2号の2種類があります。それぞれの特徴をまとめると以下の通りです。

特定技能1号特定技能2号
在留期間通算5年更新回数の上限なし
家族の帯同不可一定の条件下で配偶者や子供などの家族の帯同が認められる
技能水準と試験要件基本的な技能水準と日本語能力を証明するための試験合格より高度な専門知識や技能を証明するための技術試験
支援受け入れ機関・登録支援機による支援の対象受け入れ機関・登録支援機による支援の対象外

特定技能の対象分野や仕事内容については、出入国在留管理庁のホームページで最新の制度情報などをご確認ください。

参考:特定技能1号の情報はこちら、特定技能2号の情報はこちら

特定技能1号の在留資格を得る要件

特定技能の在留資格を取得するために必要な要件が「日本語能力」と「技能評価試験の合格」です。これらは、日本の企業で即戦力として働ける証明として重要な意味を持ちます。

日本語能力試験でのレベル証明

特定技能1号の取得には、原則として日本語能力試験(JLPT)でN4以上のレベルが求められます。もしくは、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)試験合格でも日本語能力の証明が可能です。なお、技能実習2号を修了した人は、日本語能力試験が免除されます。

ネパール国内でも日本語能力試験は実施されており、年々試験にチャレンジするネパール人の数が増えているようです。実施都市や実施期間の情報は、以下のページで確認できます。

参考:日本語能力試験(海外の実施都市・実施期間一覧)
参考:国際交流基金日本語基礎テスト(日本国外の試験会場)

技能評価試験の合格

特定技能外国人として働くためには、各分野ごとに定められた技能評価試験に合格する必要があります。技能評価試験はそれぞれの業界団体が実施しており、実務に即した内容です。

「筆記試験(業務に関する知識を問う問題)」と「実技試験(作業手順や技術の実演)」のそれぞれで基準点をクリアすると、合格証書が発行されます。従事しようとする業務と技能実習2号の職種・作業に関連性が認められる場合は技能試験が免除されます。

試験は日本国内と、ネパールなど海外の試験会場で実施されています。以下のページで具体的な情報が提供されていますのでご確認ください。

参考:特定技能に関する試験情報

特定技能1号の採用プロセス~ネパールから受入れる場合〜

特定技能1号の採用プロセス~ネパールから受入れる場合〜

雇用契約の締結

募集してきた中から面接を経て採用する人材が決まったら、雇用契約を締結します。特定技能外国人との雇用契約には、業務内容や報酬、労働時間などの労働条件に加え、支援内容も明記する必要があります。

特定技能の雇用契約書は、ネパール人が理解できる言葉も記載されているとトラブルになりにくいです。出入国在留管理庁のホームページでは、ネパール語を併記した雇用契約書もひな形として提示されていますので、参考にするとよいでしょう。

参考:出入国在留管理庁 特定技能関係の申請・届け出様式一覧

協議会への加入

特定技能外国人を雇用する企業は、各分野の協議会に加入することが義務付けられています。協議会では、特定技能外国人の受入れに関する情報提供やサポートを行っています。

はじめて特定技能外国人を受入れる場合には、在留資格の申請時に協議会の加入証を提出しなくてはなりません。分野によっては入会まで数週間という場合もあれば、数か月かかることもありますので、採用計画の段階で早めに準備すると慌てずにすみます。

在留資格認定証明書の交付申請

雇用契約締結後、出入国在留管理局に対して在留資格認定証明書の交付申請を行います。申請は基本的に行政書士等に依頼することが多いです。審査期間の目安は、通常1〜3か月程度です。

在留資格認定証明書が交付されたら、原本をネパールの特定技能候補者に送付します。

ビザ(査証)発給申請

特定技能外国人として日本に入国予定のネパール人は、在留資格認定証明書を在ネパール日本大使館に提示してビザの発給申請を行います。

事前ガイダンスと健康診断

日本で働く予定のネパール人は、来日前に日本での生活や労働についての事前ガイダンスを受講するとともに、健康診断を受ける必要があります。

海外労働保険への加入

ネパール政府は、海外で働く自国民を保護するため、海外労働保険への加入もしくは海外労働者社会福祉基金金(Migrant Worker’s Welfare Fund)への一定額の支払いを義務付けています。ネパール人は出国前にこの手続きを行います。

海外労働許可証の取得

ヒマラヤ山脈

最後にネパール人本人が、ネパール労働・雇用・社会保障省海外雇用局の日本担当部門に対し、海外労働許可証の発行をオンライン申請します。海外労働許可証を取得したら、来日の準備完了です。

海外労働許可証は、ネパール人労働者の海外での労働条件が適切であるかを確認するもので、不法就労を防ぐ役割を果たしています。

特定技能1号の採用プロセス~日本在住の場合〜

雇用契約の締結

日本在住のネパール人(例えば、留学生や技能実習生など)を特定技能として雇用する場合も、まずは雇用契約を締結します。

在留資格変更許可申請

雇用契約を締結したら、出入国在留管理局で在留資格変更許可申請を行います。

海外労働許可証の発行を申請・取得(特定技能で一時帰国の場合)

特定技能への在留資格変更後、ネパール人が特定技能外国人として一時帰国する場合には、ネパール労働・雇用・社会保障省海外雇用局の日本担当部門に対し、海外労働許可証の発行申請を行い許可証の発行を受けます。この海外労働許可証は、ネパール出国時の審査でチェックされるために取得が必要です。

面接の際に注意すべきポイント

候補者の面接の場では、社風や業務内容について理解してもらうだけでなく、外国人本人のスキルや意向を確認することで自社に合う人材とマッチングしやすくなるでしょう。

業務内容や雇用条件の説明

特定技能外国人との面接では、業務内容雇用条件について具体的かつ明確に説明することが重要です。特に、日本の労働環境や企業文化に関する理解を深めてもらうことで、来日後のミスマッチを防ぐことができます。

業務内容や雇用条件などの説明は、外国人本人が理解できる母国語で行うことでトラブルを防げます。通訳などを通じ、正確に理解してもらうことが必要です。

日本語能力とコミュニケーションスキルの確認

実際の業務で必要な日本語能力コミュニケーションスキルを確認することも大切です。特定技能制度ではN4相当以上の日本語能力が求められますが、業種や職場環境によって必要なレベルは異なります。実際の業務の場面をもとに、どのような受け答えをするか簡単なロールプレイングを行うこともおすすめです。

本人の意向と職場での支援内容の確認

特定技能外国人に対しては、後述で説明の通り日本での生活や業務に関する支援が義務付けられています。面接時に、日本での働き方の意向や不安点などを尋ね、採用された後にどのような支援が受けられるのかを明確に伝えることで、安心して就労できる環境であることをアピールできます。

雇用後のサポート体制

特定技能外国人への支援の提供

特定技能1号の外国人を雇用する受入れ企業は、入国後のサポートを適切に実施する必要があります。外国人労働者がスムーズに生活し、仕事ができるようにするための支援です。

具体的には、以下のような支援の提供が義務付けられています。

※出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成

受け入れ企業は、これらの内容を「支援計画書」に記載して、特定技能外国人に交付します。

登録支援機関の活用がおすすめ

「支援計画書」の作成や実際の支援業務に関しては、自社で準備しようとすると想定以上の経費や手間がかかることもあります。これらの支援業務は、出入国在留管理庁に登録された「登録支援機関」に委託することができます。

登録支援機関とは、特定技能外国人の生活・職場適応を支援する専門機関です。専門知識を持った支援機関を活用することで、適切かつ効率的なサポートが可能になります。

企業が登録支援機関に委託すれば、支援業務の負担を大幅に軽減できるためメリットも大きいです。特にはじめてネパール人を特定技能1号で受け入れる際は、支援に慣れている登録支援機関の活用を検討してみるのも一つの手かもしれません。

採用の検討段階から雇用中に至るまで、力になってくれることでしょう。

参考:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜

日本での長期的なキャリア構築を支援

特定技能外国人の定着率を高めるためには、日本での長期的なキャリア構築を支援することが重要です。特定技能1号としての滞在期間は最長5年ですが、その後も日本で働く意思のある外国人には、スキルアップの機会提供や将来のキャリアパスを示すことで、モチベーションの維持や向上につながります。

特定技能2号の取得要件(実務経験や試験など)について確認をするのも本人にとって役立つ情報提供になります。

ネパールから特定技能外国人を採用する際の費用

ネパール人材を特定技能で採用する際には、以下のような費用が発生します。

求人・採用にかかる人材紹介・仲介費用人材紹介会社や日本の登録支援機関を利用する場合の費用
30~50万円
ビザ申請費用特定技能ビザの取得費用
10万円前後
渡航費日本への航空券代、健康診断の費用
10万円前後
住居費用寮を提供する場合の、家賃や設備費用
地域による
教育訓練・支援費事前ガイダンスや日本語研修を実施するときの費用
人数による
月々の支援委託費登録支援機関へ支払う費用
1人あたり月2~3万円

これらの費用はあくまで参考程度のものであり、実際の金額は地域や企業、また提供される支援内容によって変わることがあります。また、費用をどちらが負担するのか(企業側か労働者側か)については、雇用契約の中でしっかり話し合い、明確にしておくことが大切です。

特定技能外国人の採用にあたっては、国や地方自治体で補助金助成金の支援を受けられる場合があります。補助金や助成金は、毎年4月~5月に多く公募案内が出る傾向です。自治体や職種によって使える補助金や助成金が違いますので、該当する支援策があるかどうか、事前に確認しておくのもおすすめです。

まとめ

カトマンズの風景

ネパール人材の特定技能での受入れは、日本企業の人手不足を解消し、事業の維持や成長のために大きく貢献する可能性を秘めています。

ネパールからの特定技能の受け入れが増える中、円滑で充実したサポート体制を整えることは、採用成功の鍵です。登録支援機関と手を組むことで、生活支援などの負担を軽減し、外国人労働者が新しい環境にスムーズに適応できるよう支援できます。

以上となりますが、当記事がネパール人材の採用の一助になれば幸いです。