近年、日本では深刻な人材不足が続いており、安定した労働力の確保が課題となっています。こうした状況の中、特定技能外国人制度を活用し、海外から優秀な人材を受け入れる企業が増えています。
スリランカは、若く勤勉で、高い教育レベルとコミュニケーション能力を持つ人材が多い国です。また、日本で働くことを希望するスリランカ人が増えてきており、今日の日本における労働力の安定化において大きな貢献に繋がるとも考えられます。
本記事では、スリランカ人を特定技能で採用するメリットや手続き、費用について詳しく解説します。スリランカ人の採用を検討している企業の採用担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
スリランカの概況
スリランカは、インドの南東に位置する島国で、美しい自然や豊かな文化を持つ国として知られています。
国土面積は約6万5,000平方キロメートルで、日本の北海道よりやや小さい規模です。人口は約2,200万人を超える規模で、比較的若い労働人口が多いのが特徴です。
経済と主要産業
スリランカの主な産業は、農業、製造業、サービス業の3つです。特に、紅茶(セイロンティー)やゴム、繊維製品の輸出が盛んで、世界市場でも高い評価を受けています。また、近年経済成長の新たな柱となっているのはITや観光業です。
しかし、スリランカは経済危機の影響を受けており、2022年には財政破綻に直面しました。その影響で、海外での就労を希望する若い世代が増え、日本を含むさまざまな国々へ労働目的で移住する動きが盛んになっています。
教育の水準が高い
スリランカの教育制度は比較的整っており、英語教育が広く普及しています。英語を話せるスリランカ人も多いため、英語を必要とする企業ではコミュニケーションの面でスムーズです。
日本との関係
日本とスリランカは長年にわたり友好関係を築いており、日本企業がスリランカで事業展開をするケースも増えています。また、日本で働くスリランカ人の数も急増しており、特定技能制度を活用したスリランカ人の入国も増加が見込まれています。
スリランカ人を特定技能で受け入れるメリット

人材不足の解消に貢献
日本では多くの業種で人手不足が続いており、国内での採用が難しくなっています。
一方、スリランカでは経済状況の影響で海外就労を希望する労働者が増加しており、日本での就労に意欲的な人材が多くいます。特に特定技能の対象業種によっては、実務経験を持つ人材も多く、即戦力として活躍できる可能性が高いです。
こうした背景から、スリランカ人の受け入れは企業の人材不足解消に大きく貢献すると期待されています。
他国より簡単な手続き
特定技能外国人の採用においては、国によってビザ取得や渡航手続きの難易度が異なります。スリランカは政府が海外就労を積極的に推進しているため、日本企業がスリランカ人を採用する際の手続きが比較的スムーズです。
例えば、スリランカの現地送り出し機関を必ずしも利用しなくてよかったり、スリランカ人の海外就労を管理するスリランカ海外雇用局(SLBFE)の仕組みが整っているため渡航準備がスムーズであるなど、企業側の負担を軽減できます。
また、日本とスリランカの間には長年の友好関係があるため、ビザ取得においても他国と比べ問題なく発給されるケースが多いです。
特定技能制度の特徴と取得条件
特定技能ビザを取得するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
特定技能の種類(特定技能1号と特定技能2号の違い)
日本の特定技能制度は、外国人が特定の分野で日本の労働力として活躍できるよう定められた在留資格です。この制度は特定技能1号と2号の2種類に分類されており、それぞれに異なる条件と特徴があります。
まず特定技能1号で日本での就労経験を積んだ後、希望者は所定の審査を経て特定技能2号へ移行し、さらなる活躍が可能となる仕組みです。
それぞれの内容は「特定技能とは?〜1号・2号の在留資格を含めわかりやすく解説〜」の記事にも詳しく書かれていますが、簡単に表すと以下の通りです。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 通算5年 | 上限なし |
家族の帯同 | 不可 | 一定の条件下で配偶者や子供などの家族の帯同が認められる |
技能水準と試験要件 | 基本的な技能水準と日本語能力を証明するための試験合格 | より高度な専門知識や技能を証明するための技術試験 |
特定技能の対象分野や仕事内容については制度変更もよくあります。出入国在留管理庁では最新の分野情報などが情報提供されていますので、ご参照ください。
特定技能1号申請のための具体的要件
特定技能の在留資格を取得するためには、一定の要件を満たす必要があります。
特に重要なのは、「日本語能力の証明」と「技能評価試験の合格」です。これらの要件をクリアすることで、日本の企業で即戦力として働くことが可能になります。
日本語能力の証明
特定技能1号の申請者は、業務を遂行できるレベルの日本語能力を証明する必要があります。
具体的には、日本語能力を測る国際的な試験である「日本語能力試験(JLPT)」の日常会話が可能なレベル(N4以上)か、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)に合格することで特定技能1号の要件を満たします。
これらの試験は、スリランカ国内でも受験が可能です。
参考:日本語能力試験(海外の実施都市・実施期間一覧)
参考:国際交流基金日本語基礎テスト(日本国外の試験会場)
技能評価試験の内容
特定技能1号では、技能評価試験に合格していることも要件の1つです。
技能評価試験は、各業種において基礎的な実務能力を持っているかを評価する試験で、日本の職場環境で必要とされる技術や知識を確認するため「筆記試験(業務に関する知識を問う問題)」と「実技試験(作業手順や技術の実演)」に分かれています。
業種ごとに定められた合格点をクリアすると合格です。合格によって採用の対象となる業種で業務遂行能力があると確認されます。
試験は日本国内またはスリランカを含む海外の試験会場で実施されています。詳細は下記リンクからご確認ください。
参考:特定技能に関する試験情報
スリランカから特定技能1号で採用するときのプロセス

求人募集と採用候補者の選定
企業はスリランカの人材紹介会社や現地の送り出し機関と連携し、特定技能試験に合格した候補者を募集します。(スリランカでは現地送り出し機関の利用は任意です。)
スリランカには優秀な人材を輩出する大学や専門学校が多くあるので、優秀な方の割合が多いでしょう。
雇用契約の締結
候補者が決定したら、日本の労働基準法等、労働関係の法律に準拠した雇用契約を締結します。求人票との相違や、入国後に条件が異ならないよう、説明には注意が必要です。
協議会への加入
はじめて特定技能外国人を受け入れる企業は、関連する分野の協議会へ加入します。協議会は、特定技能外国人の受け入れに関する情報提供やサポートを行っている組織です。
出入国在留管理庁へ在留資格の申請前に加入申請が義務付けられています。
在留資格申請およびビザ(査証)発給手続き
必要な書類を揃えたら、次は出入国在留管理庁(入管)に「在留資格認定証明書」の申請を行います。申請は依頼を受けた行政書士等が行うことが多いです。
この証明書が発行されることで、外国人が日本のビザを取得するための準備が整います。あわせて、採用候補者はスリランカの日本大使館で「特定技能1号」のビザを申請します。
入国前の準備(事前ガイダンス・健康診断)
受入れ企業はオンラインまたは対面で事前ガイダンスを行います。入国前の事前ガイダンスは企業の義務です。しかし、後述する日本の登録支援機関に委託することができます。
また、採用者に健康診断を受けてもらい、健康状態のチェックも行います。
スリランカ海外雇用局(SLBFE)に登録

スリランカ政府は海外就労を希望する国民を保護するため、スリランカ海外雇用局への登録を義務付けています。これにより、就労者は政府の支援や保障を受けることができます。
スリランカからの出国と日本入国
ビザが発給された後、スリランカ人は日本へ渡航します。入国審査を経て在留カードが発行されたら、正式に企業に入社できるという流れです。
日本在住のスリランカ人を採用するときのプロセス
すでに日本に在住しているスリランカ人を特定技能1号で採用する場合、海外からの手続きが不要なため、比較的スムーズに採用が進みます。
求人募集と採用候補者の選定
企業は人材紹介会社、外国人向け求人サイトなどを通じて日本国内でスリランカ人労働者を探します。
雇用契約の締結
採用候補者との面接を実施し、採用が決定した場合は、日本の労働基準法等労働関係の法律に準拠した雇用契約を締結します。
在留資格変更許可申請
採用者の現在の在留資格(例:技能実習、留学など)が特定技能1号と異なる場合、出入国在留管理庁(入管)に在留資格変更許可申請を行います。
特定技能1号の在留資格を持っていても、転職の際には新しい職場で働く指定が必要です。この場合も在留資格資格許可申請を行います。
スリランカ海外雇用局(SLBFE)に登録

日本に住んでいるスリランカ人でも、新たに特定技能1号で働く場合には、スリランカ海外雇用局へ登録します。スリランカ政府が海外労働者を適切に管理し、必要な支援を提供するためです。
面接の際に注意すべきポイント
特定技能として入社してもらうための面接では、自社の業務への理解を深めてもらう機会であるとともに、外国人候補者が日本でどのように働いていきたいか、どのようなスキルを持ち、活かしていきたいかを尋ねるとミスマッチを防げます。
業務内容や条件への理解
入社したときに担当する業務の具体的な内容や、1日の業務スケジュールを伝えます。あわせて給与、手当、休日、シフトの仕組みといった労働条件について、外国人がよく理解できる言語で話し合っておくと良いでしょう。
また、外国人労働者のこれまでの職務経験を詳細に確認することで、実務においてどのような即戦力を発揮できるかを見極めることが可能です。
日本語スキルの確認
日本での就労では、基本的な日本語コミュニケーション能力が不可欠です。特に、業務指示の理解で安全性や職場でのチームワークに影響を及ぼすこともあります。
業務によっては日本語スキルが低くても問題ない場合もありますが、安全管理や顧客対応が必要な業務では、日本語能力がある程度求められます。
面接の際に、業務に関連するシチュエーションを想定し、「この場合、どう対応しますか?」などと質問して、適切に受け答えできるかを確認するのも有効です。
職場での長期的な目標
特定技能1号の在留期間は最長5年間ですが、企業にとってはできるだけ長く働いてもらいたいと考えるのが一般的です。そのため、面接時に候補者がどの程度長期的な視点で働く意思があるのかを確認することも重要です。
日本でどのような経験を積みたいか、長く働きたいか、それとも期間が決まっているのか、専門性を高め在留期間の制限のない特定技能2号などへの移行は考えているのかなど、長期的なキャリアプランについて話を聞くことで、自社が求める特定技能外国人像とのマッチングをより深められます。
雇用後のサポート体制
特定技能外国人を受け入れた後、企業には適切なサポートを提供する義務があります。日本の職場や生活にスムーズに適応し、長く働ける環境を整えることで定着率が向上することも期待できるでしょう。
支援計画書にに基づく支援の提供
特定技能1号の外国人を雇用する企業は、「支援計画書」を作成し、入国後のサポートを適切に実施する必要があります。この計画書には、外国人労働者がスムーズに生活し、仕事を続けられるようにするための支援内容が具体的に記載されています。

※出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成
登録支援機関を活用
企業が支援業務をすべて自社で行うのが難しい場合は、「登録支援機関」を活用することができます。
登録支援機関とは、特定技能外国人の生活・職場適応を支援する専門機関です。企業に代わって各種サポートを提供します。
・入国前の事前ガイダンスの実施
・入国後の生活サポート(住宅の確保や生活オリエンテーションの実施、日本語学習の機械提供)
・定期的な面談で職場の状況や悩みをヒアリング、労働条件の確認や問題発生時の対応
といった内容が代表的なサポート例です。
企業が登録支援機関に委託すれば、支援業務の負担を大幅に軽減できるため、特定技能外国人の雇用がスムーズになります。
参考:登録支援機関とは〜特定技能制度における役割と選び方をわかりやすく解説〜
1号特定技能外国人のキャリア構築支援
企業にとって優秀な人材は、できるだけ長く働いてほしいものです。
企業独自の研修プログラムを用意し、技術や業務スキルを高める機会を提供したり、長期間働く意思のある外国人には、特定技能2号の取得要件(実務経験・試験合格)を満たすための指導を行うなど、将来的なキャリアパスを考えながらサポートすることで、定着率を高めることができます。
スリランカから特定技能で採用する際の費用
スリランカ人を特定技能外国人として採用する際は、初期費用と毎月のサポート費用がかかります。
人材紹介・仲介費用 | 人材紹介会社や日本の登録支援機関を利用する場合の費用 | 30~50万円 |
ビザ申請費用 | 特定技能ビザの取得費用 | 10万円前後 |
SLBFE登録費用 | スリランカ海外雇用局への登録費用(企業が負担する場合) | 約2万円 |
渡航費 | 日本への航空券代、健康診断の費用 | 5〜10万円前後 |
住居費用 | 寮を提供する場合の、家賃や設備費用 | 地域による |
教育訓練・支援費 | 事前ガイダンスや日本語研修を実施するときの費用 | 人数による |
月々の支援委託費 | 登録支援機関へ支払う費用 | 1人あたり月2~3万円 |
特定技能外国人を雇用している企業に対し、国や自治体から支給される補助金や助成金も見逃したくないポイントです。自社で適用可能な支援制度が存在するかどうか、最新の情報を調査・確認することをお勧めします。
まとめ
スリランカから特定技能外国人を採用することは、人材不足の解消につながる有益な選択肢です。日本で特定技能として働くスリランカ人の数はまだそれほど多くありません。
しかしスリランカでは今、日本で働くということに対して大きな注目が集まっています。日本語を勉強するスリランカ人が急増していることもあり、特定技能でスリランカ人を採用したいという企業にとっては追い風といえます。
スリランカ人材の採用を検討する際は、信頼できる人材紹介会社や登録支援機関と連携し、適切なサポート体制を構築することが不可欠です。
しっかりとした雇用計画と支援体制を整えることで、安定した人材確保を実現することができるでしょう。