近年、日本の宿泊業界は、インバウンド観光の急増と高齢化が重なり、深刻な人手不足に直面しています。特にフロント業務やレストランサービス、清掃などの日常業務を担う人材の確保が困難です。そこで、多くの宿泊施設が外国人人材の採用に目を向け、外国人の在留資格である「特定技能」制度に注目が集まっています。
本記事では、旅館・ホテルに特化した特定技能外国人の受け入れ方法や特定技能外国人を採用することで得られるメリット、そして在留資格の手続きなどについて、わかりやすく解説します。
そもそも特定技能外国人とは?
特定技能外国人とは、特定の産業分野における労働力不足を補うために創設された在留資格を持つ労働者です。
宿泊業分野では、施設内の幅広い業務で特定技能外国人を採用することが可能です。
宿泊業で特定技能外国人を採用するメリット
即戦力が期待できるケース
特定技能外国人は、旅館やホテルの業務に必要な技能試験に合格し、宿泊業に特化した専門知識とスキルを持っています。外国人労働者を採用する際には言語の壁の心配もありますが、特定技能外国人は日本語能力試験にも合格しているため、言語の問題をある程度クリアしています。
これにより日本人従業員とコミュニケーションを取りながら、業務をスムーズに進めることが可能です。
インバウンドの対応
また、インバウンド需要の急増に伴い、これまでより多国籍のお客様への対応が求められる中、外国人としてそれぞれの文化や習慣を理解できるケースもあり、柔軟で適切な対応が期待できます。
また、国によってはしっかりした英語教育を受けているので、外国人の応対もスムーズに行えるでしょう。
長期的な雇用の可能性
特定技能1号から2号に移行すれば、更新を続けることで長期的な雇用が可能となります。さらに、2号では家族帯同が認められるため、安定した生活基盤を築くことができ、定着率の向上が期待できます。
任せられる業務について
旅館やホテルにおける「フロント業務」、「企画・広報業務」、「接客業務」、「レストランサービス業務」など、宿泊サービス全般にわたる役割を担うことができます。また、これらの業務に付随して行うことのできる、ホテルや旅館内での販売業務や備品の点検・交換、客室清掃などの関連業務にも対応が可能です。
宿泊業における特定技能外国人の要件
外国人にとって特定技能ビザの取得は、スキルを活かして日本で働くための大切なステップです。
以下、特定技能外国人が日本の宿泊業で働くために必要な要件について詳しく解説します。
日本語能力に関する試験 & 技能試験に合格
宿泊業で働くためには、最低限の日本語能力が求められ、日本語能力試験でN4レベルの試験に合格することが必須です。N4に合格することで、日常会話や業務上の指示を理解する能力が証明されます。
そして、技能試験にも合格する必要があり、宿泊業に関する試験では、フロント業務、客室清掃、安全衛生管理などの知識が問われます。この試験に合格することで、実際の業務に従事するための基本的な知識があることが確認されます。
余談ですが、宿泊業技能試験センターが試験を作成しているのと、試験に関する情報が記載されています。
宿泊分野で技能実習2号を良好に修了
宿泊分野で技能実習2号を良好に修了した外国人は、試験を受けずに特定技能1号「宿泊業」へスムーズに移行することが可能です。実際に、旅館やホテルなどの宿泊施設で数年間の技能実習を終え、いったん帰国したものの、再び日本で働きたいと考える外国人も少なくありません。このような経験を持つ外国人は、即戦力として宿泊業で再び貢献することが期待されます。
採用にあたってのポイント
特定技能外国人を採用する際は、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
特定技能外国人を採用する際には、宿泊業にかかわらず在留資格の理解が非常に重要です。在留資格は、外国人労働者がどのように働けるかを決定する重要な要素であり、資格に合わない業務を行わせてしまうと、外国人労働者だけでなく、企業にも大きな責任が生じてしまいます。
そのため、在留資格に基づいた業務範囲を確認し、採用するポジションや業務内容を明確にすることが不可欠です。必要なスキルや経験を把握し、適切な基準を設定することで、企業に最適な人材を採用できます。
また、受け入れる企業側にも特定技能外国人を適切に支援できるかの要件があります。採用するにあたってこの要件を満たしているかもチェックするとよいでしょう。
企業だけでの支援が難しい場合には、登録支援機関の活用を検討することで負担を大幅に軽減できます。登録支援機関は、在留資格に基づく適切な支援を提供しスムーズな受け入れをサポートします。
特定技能外国人を採用するためには?
国内外での求人活動が必要です。現地の大学や専門学校、日本語学校と提携している人材紹介会社や外国人専門の採用プラットフォームを活用することで、適切な人材を確保することが可能です。
内定後の手続き
内定後は、まず企業と外国人が正式に雇用契約書など必要な契約を結び、ビザ申請に必要な書類の準備を進めます。また、以下にも説明しますが1号特定技能外国人支援計画書の作成と事前ガイダンスも同時に行います。このほか、住居の確保や必要な生活準備のサポートも進めていきます。
1号特定技能外国人支援計画」とは?
特定技能1号の外国人が日本で安定して働き、日常生活や社会生活をスムーズに過ごせるよう、職業面や生活面での支援を提供する計画です。この計画には10項目の義務的支援が含まれており、これに基づいてサポートを行う必要があります。
※法務省「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」をもとに作成
事前ガイダンスとは?
事前ガイダンスとは、特定技能外国人が日本で働き始める前に、日本の生活や仕事のルールを学ぶための説明会です。これにより、外国人が日本で安心して働き、生活をスタートできるようサポートします。
例えば、日本の法律や職場のルール、日常生活のマナーなどを外国人に説明します。これは外国人が新しい環境に早く慣れるための大切なプロセスになります。
この事前ガイダンスは、企業もしくは登録支援機関が行わなければならない入管法で定められている義務的支援のひとつです。
ビザ申請の手続き
内定後の手続きを終えたら、必要書類を整えて入国管理局に在留資格認定証明書交付申請を行いましょう。認められた場合は在留資格認定証明書が発行されます。また、在留資格の申請書は手続きが煩雑なため専門知識が求められます。
企業と外国人本人が準備すべき書類は非常に多く、書類の準備から申請書が交付されるまでに、3〜6ヶ月かかることも珍しくありません。特定技能外国人をできるだけスムーズかつ早く迎えるためには、行政書士などの専門家や登録支援機関のサポートを受けることをおすすめします。
協議会の加入
特定技能の宿泊分野で外国人を受け入れる際には、宿泊分野特定技能協議会への加入が義務付けられています。この協議会は、特定技能外国人の適正な受け入れと保護を目的としており、労働環境の整備や情報共有を促進します。なお、現在のところ費用はかからず無料で加入が可能です。
入国後における受け入れ時のポイント
以下、法令を遵守しながら、外国人労働者を円滑に受け入れるためのポイントを詳しく説明していきます。
オリエンテーション
上述の図にありますよう生活オリエンテーションは、特定技能外国人が日本での生活にスムーズに適応できるよう必要な情報を提供する支援です。具体的には、日常生活に必要な情報の提供や、届出や手続きの方法、交通ルール、医療機関の利用方法、ゴミの分別方法など、地域のルールや生活習慣を説明します。
また、生活トラブルを未然に防ぐための生活ルールやマナーについてのアドバイスや相談窓口の案内も含まれます。これにより、外国人労働者が安心して日本での生活や職場環境に適応できるようサポートします。
生活の準備
入居手続き、銀行口座の開設、保険加入など、これから日本での生活の基盤を整えるために必要な支援です。
受け入れ後のケアについて
特定技能外国人が職場に定着し、長期的に働くためには、受け入れ後のケアが重要です。
1号特定技能外国人支援計画書に沿って支援する
外国人が職場に早く馴染み、業務に集中できる環境を整えます。また、特定技能外国人の雇用においては、適切な支援が行われているかを確認するための「定期報告が3ヶ月に1回必要」です。
この報告により、支援内容が計画通りに実施されていることを確認し、外国人労働者の就労や生活状況が法的に問題なく進行していることを証明します。
◯定技能外国人に対する義務的支援10項目の概要◯
事前ガイダンス:雇用契約後、労働条件や入国手続きについて対面やオンラインで説明。
出入国時の送迎:入国時の空港から住居・事業所への送迎、帰国時は空港の保安検査場まで同行。
住居・生活支援:住居の確保やライフライン契約、銀行口座の開設などをサポート。
生活オリエンテーション:日本のルール、公共機関の利用方法、災害時の対応などを説明。
公的手続き同行:住居登録や社会保障手続きなどのサポート。
日本語学習の支援:日本語教室や教材の案内を提供。
相談・苦情対応:外国人が理解できる言語で職場や生活の相談・苦情に対応。
交流促進:地域の行事や住民との交流をサポート。
転職支援:雇用契約解除時に転職先探しや求職
定期面談・通報:3か月に1回の面談を実施し、問題があれば行政機関に報告。
旅館・ホテルが地方にある場合は孤立しないよう入念なケアを
地方の宿泊施設では、特定技能外国人も身寄りや友人が少ないケースもあるはずです。外国人労働者が孤立しないよう、雇用主や同僚と共に地域行事への参加やコミュニティとの交流機会を設けたり、定期的にカウンセリングを行うなどの支援が求められます。
深夜残業に対するケアを
宿泊業では深夜業務が発生することも多いため、健康管理や労働時間の適切な管理が重要です。深夜業務に従事する外国人労働者の体調に気を配り、労働時間を適切に調整することが求められます。
顧客とのトラブルが起こらないようにサポートを
様々なお客様が来館されるホテル業界。ちょっとした言葉の言い回しや作法が原因で顧客とのトラブルが発生する可能性があります。事前にトラブル対応の研修を行うことで、スムーズな顧客対応ができるように支援します。
ビザの更新
特定技能外国人は一定期間ごとにビザの更新が必要です。ビザの更新を忘れないよう、スケジュールを管理し、適切に対応することが重要です。
特定技能2号を目指す
特定技能1号から2号に移行することで、長期的な雇用が可能となります。2号への移行を目指すための支援や教育を積極的に行い、外国人労働者がキャリアを築ける環境を提供しましょう。
まとめ
特定技能外国人の採用は、宿泊業界の単なる人材不足解消だけでなく即戦力として業務がスムーズに進み、インバウンド需要にも対応できる柔軟なサービスが期待できます。そこで採用から受け入れ、サポートまでを整えることで、外国人労働者とともに円滑な業務運営が可能です。
また、特定技能外国人の雇用には、在留資格の内容理解と支援体制の構築が不可欠です。専門家や登録支援機関のサポートを活用することで、企業側の負担が軽減され、雇用が円滑に進行します。
そして日本人スタッフのみならず、特定技能外国人に対して適切なサポートと働きやすい職場環境が、能力を最大限に引き出し、企業のさらなる成長を築く鍵となるでしょう。