近年、自動車整備業界は少子化や離職率の高さが重なり、慢性的な人手不足に陥っています。そんな中、一定の専門性や技術を有する外国人の在留資格である特定技能外国人の受け入れが注目されています。

しかし、実際に雇用を進めるにあたって、「どのような流れで進めるのか」「どのような注意点があるのか」といった点で悩む企業も多いのではないでしょうか?

当記事では、自動車整備業界で特定技能外国人を雇用する際のメリットや注意点、必要な手続きについて解説します。

自動車整備における特定技能外国人を受け入れるメリット

特定技能外国人を受け入れることで、企業や業界が得られるメリットは大きく分けて3つあります。

労働力不足の解消

自動車整備業界の人手不足が深刻な中、特定技能外国人の採用によって労働力不足の解消が見込めます。

また、自動車整備の特定技能外国人は、中長期的な雇用が期待できます。特定技能1号の在留資格は在留期間が最大5年間あり、その後特定技能2号に切り替えた場合、在留期間の制限はありません。そのため、長く働いてもらう事ができます。

技術の定着

特定技能外国人は、自動車整備の業務に必要な技能試験に合格し、自動車整備に関する一定レベルの技能を持つ人材です。日本語能力試験にも合格しており、日本語能力もある程度持っているため、即戦力として活躍することが期待できます。

多様性の向上

異なる文化背景を持つ外国人労働者を雇うことで、新たな視点やアイデアが生まれたりします。

特定技能外国人を受け入れる際の注意点

自動車整備の特定技能外国人を受け入れる際には、いくつかの注意点があります。

直接雇用であること

自動車整備の特定技能外国人を雇用する際に、派遣雇用は認められていません。直接雇用契約を結ぶ必要があります。また、パートタイムではなく、フルタイムでの雇用が必要です。

転職が可能

特定技能外国人は転職が認められているため、労働環境や待遇に不満があれば他社へ移ることが可能です。そのため、労働環境の整備や円滑なコミュニケーション、キャリアアップ機会の提供など、長く働いてもらえるための環境作りが大切です。

受け入れ後のフォローが必要

特定技能外国人を受け入れた後も、日本人従業員を雇った場合には発生しないフォローや手続きが必要です。特定技能外国人への支援や、定期的に書類を作成して出入国在留管理庁に定期報告を行う義務があります。

特定技能外国人を受け入れる要件

特定技能「自動車整備」の在留資格を取得するには、受け入れ企業と外国人労働者の双方が要件をクリアしなくてはなりません。

それぞれの要件について詳しく説明します。

受け入れ企業の要件

自動車整備の特定技能外国人の受け入れには、受入れ企業が満たすべき以下の要件があります。

① 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第78条第1項に基づく、地方運輸局長の認証(限定認証や二輪のみも含む。)を受けた事業場であること
②国土交通省が設置する自動車整備分野に係る特定技能外国人の受入れに関する協議会に加入すること
参考:出入国在留管理庁 自動車整備分野

外国人側の要件

外国人労働者が特定技能の自動車整備分野で働くためには、特定技能試験と日本語能力試験に合格していること、または技能実習2号を良好に修了していることが求められます。

具体的には以下①か②のどちらかです。

①以下の試験に合格した者
・特定技能試験「自動車整備分野特定技能評価試験」又は「自動車整備士技能検定試験3級」
・日本語能力試験「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」②「自動車整備職種、自動車整備作業」の第2号技能実習を良好に修了した者

以下の表にあるとおり、特定技能1号と特定技能2号で取得方法が異なります。

区分日本語試験技能試験
特定技能1号

※技能実習2号の自動車整備職種自動車整備作業を修了した者は試験免除
国際交流基金日本語基礎テスト  または 
日本語能力試験(N4以上) 
自動車整備分野特定技能1号評価試験【経過措置】 「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針の一部変更について」 (令和5年6月9日閣議決定)により、下記の試験に合格した者も、自動車整備分野特定技能1号評 価試験に合格したものとみなす。自動車整備分野特定技能評価試験
または
自動車整備士技能検定3級
特定技能2号不要自動車整備分野特定技能2号評価試験 または自動車整備士技能検定2級

法務省国土交通省「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領 -自動車整備分野の基準について 別表(自動車整備)」の資料をもとに作成

自動車整備で特定技能外国人の受入れ可能な業種と業務

自動車整備の特定技能1号で任せられる業務内容は、主に以下3つの業務区分に分かれます。

日常点検整備:主に、エンジンやオイルの量などの点検、ランプ類の点灯/点滅などの点検、タイヤの亀裂/損傷の有無、空気圧などの点検など
定期点検整備:道路運送車両法に基づく法定点検整備
特定整備・特定整備に付随する業務:エンジンやブレーキなどの分解整備、電子制御装置の整備や鈑金塗装など

また、これらの業務に付随して行える業務内容としては、整備内容の説明及び関連部品の販売、部品番号検索・部内発注作業、ナビ・ETC等の電装品の取付作業、洗車作業、下廻り塗装作業、車内清掃作業、部品等運搬作業などの関連業務があります。ただし、関連業務のみに従事することは認められていないので、注意しましょう。

自動車整備で特定技能2号はあるのか

令和5年6月に、自動車整備分野の特定技能2号の受け入れが決定しました。これにより、特定技能1号の外国人が試験に合格すれば特定技能2号に移行でき、長期的に日本で自動車整備業に従事することが可能になりました。 

自動車整備で特定技能外国人を受け入れる方法

自動車整備で特定技能外国人を受け入れる方法

自動車整備で特定技能外国人を受け入れる方法は大きく分けて3つあります。

海外で試験に合格した人材を雇用

1つ目は、海外で以下2つの試験に合格した人材を雇用する方法です。

1.「自動車整備分野特定技能評価試験」又は「自動車整備士技能検定試験3級」
2. 日本語能力試験「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」

技能実習2号を良好に修了した人材を雇用

2つ目は、日本で自動車整備の技能実習2号を良好に修了した人材を雇用する方法です。技能実習期間中に自動車整備の基礎的な技術を身につけており、日本語や日本の生活にも慣れているので、スムーズに雇用をスタートしやすいです。

既に国内にいる特定技能人材を雇用

3つ目は、日本国内で転職を希望する特定技能外国人を採用する方法です。すでに特定技能で就業経験のある外国人ですので、採用後も即戦力としての活躍が期待できます。

採用にあたってのポイント

特定技能外国人の採用を成功させるために押さえておきたい、いくつかの重要なポイントがあります。

国を選定する

特定技能外国人の採用にあたって、ベトナム、フィリピンなどの自動車整備の特定技能試験が実施されている国を選定して、その国に特化した採用活動を行うと効率的です。

国ごとに異なる文化や宗教、国民性をよく理解して選定をしましょう。

面接でスキルや人間性を見極める

求める候補者像と国籍が決まったら、面接を実施します。面接では候補者の特徴や本質、意向を知る質問をして相手をよく知り、入社後のミスマッチを防ぎます。

自分の強みやスキルをどうアピールするかも確認しましょう。より即戦力のある人材を採用するために、自動車整備のスキルテストや実技試験を行うのも有効でしょう。

明確な夢や目標を持っているかどうかも大切です。夢や目標を持っている方は仕事へのモチベーションも高く、仕事で多少の困難があっても乗り越えることができます。

また、特定技能の面接では、候補者の家族の意向についてもよく質問されます。本人が日本で働くことに家族が賛成しているかどうかが、日本でどれ程長く働いていけるかに影響します。できれば家族の意向も面接で確認しておきましょう。

面接はオンラインでも可能ですが、できれば対面で行うことをおすすめします。対面面接では、候補者の人柄や熱意を直接感じ取ることができ、企業側の熱意や意向もより相手に伝わりやすくなります。

内定後に行うこと

内定後に行うことは、大きく分けて3つあります。

初めて特定技能外国人を雇う場合は協議会へ加入

初めて特定技能外国人を雇う場合は、国土交通省が設置する自動車整備分野特定技能協議会に加入する必要があります。

この協議会は、国土交通省や自動車整備分野の特定技能所属機関、業界団体などによって構成されており、無料で加入ができます。管轄の地方運輸局に入会申込書を送付して加入申請をします。

ビザの申請    

内定を出して雇用契約を結んだ後は、出入国在留管理局に特定技能「自動車整備1号」の在留資格認定証明書交付申請を行います。

申請には「地方運輸局長の認証を受けた事業場の証である認証書」および「自動車整備分野特定技能協議会入会届出書兼構成員資格証明書」の写しも必要です。

書類に不備がなければ、3か月程度で出入国在留管理庁から在留資格認定証明書が発行されます。準備すべき書類が非常に多く、書類の準備に1、2ヶ月はかかりますので、早めに準備を開始しましょう。

特定技能外国人の支援体制を整える

受け入れ企業は、1号特定技能外国人に様々な支援をするよう義務付けられています。実施する支援の支援計画書を作成し、ビザ申請の際に出入国在留管理庁へ提出します。支援計画書は、特定技能外国人が日本の生活にうまく適応し、業務を円滑に進める上で必要です。

支援計画書には以下10項目の義務的支援が含まれます。これらの支援を行えるような支援体制を整えておきましょう。

入国前後では支援計画に沿って行動する 

入国前後は支援計画に沿って行動しましょう。

まずは入国前の事前ガイダンスとして、労働条件や業務内容、入国手続き等の説明を行いましょう。また、空港への迎え生活に必要な契約の支援、日本の生活に順応できるように生活オリエンテーションを実施します。

必要なら登録支援機関を活用することも検討

特定技能外国人を初めて雇用する場合、すべての支援計画を自社で行うには時間と人手がかかる場合があります。そんな時は、外部に委託して特定技能外国人への支援を実施してもらうことも可能です。

登録支援機関を活用すれば、企業が果たすべき支援義務を代わって実施してくれます。支援計画の全てを委託することもできますし、部分的に委託することもできます。

入社後に気をつけること

特定技能外国人が働き始めた後も、職場に慣れて長く働いてもらうためには、企業は継続的なサポートを行う必要があります。

具体的に気をつけるポイントを以下で説明します。

孤立しないようフォロー

孤立しないようフォロー

特定技能外国人が職場や日常生活で孤立しないようにフォローしましょう。言葉や文化の壁、日本の慣習への不理解などから、特定技能外国人が孤立してしまうケースがあります。

特定技能外国人が孤立しないために、定期的に面談を実施して、必要であれば助言や適切な指導を行うようにしましょう。

日本語はある程度習得していますが、必要であれば日本語教室の情報の提供などを行いましょう。また、地域のお祭りや行事への案内・参加などを通して地域コミュニティとの交流を促したり、日本の文化へ触れ合う機会を作る支援が求められます。

無理な労働にならないよう見守る

残業代の支給をありがたく思う外国人労働者も多く、残業を好んで行う傾向があります。しかし、慣れない環境での業務は、精神的なストレスが知らぬ間にたまり、体調を崩すことがあります。

そのため、特定技能外国人の健康管理や労働時間の適切な管理が重要となります。従事する外国人労働者の体調に気を配り、労働時間の適切な調整を心がけましょう。

特定技能2号移行に向けてのサポート

特定技能1号終了後に特定技能2号へ移行してもらうためのサポートを行いましょう。

特定技能2号へ移行すると、在留期間の上限がなくなり、長期的に日本で働いてもらう事ができます。国の家族を呼び寄せることもでき、指導的な業務も行えますので、特定技能外国人のモチベーションアップや業務パフォーマンスの向上にもなるでしょう。

特定技能2号移行のためには、自動車整備分野特定技能2号評価試験への合格が必要です。試験合格を目指した支援や教育を行い、特定技能外国人のキャリアアップのための環境作りを支援しましょう。

まとめ

まとめ:自動車整備で特定技能外国人を雇いたい

自動車整備分野における特定技能外国人の採用について、詳しく解説してきました。自動車整備業界での慢性的な人手不足の解消に、特定技能外国人の受け入れは有効的な手段です。

本記事のポイントをまとめると次のとおりです。

・一定レベルの技能を持つ特定技能外国人は即戦力としての活躍が期待できる
・転職が可能なのと、フルタイムの直接雇用でのみ従事可能

・受け入れ企業の要件に注意する
・任せられる業務内容に注意
・自動車整備の特定技能2号開始により、中長期で雇用できる
・特定技能外国人の特徴や本質、意向を捉えて採用する

・在留資格の内容理解と適切な手続きが必要
・受け入れ後のケアや出入国在留管理庁への報告は必要不可欠

家族と離れて、言語や文化が異なる日本で働くことを目指す特定技能外国人。夢や目標を持って懸命に働く人も多く、職場にも良い影響を与えてくれます。

自動車整備の人材不足に悩んでいる企業の方は一度、特定技能外国人の採用を検討してみてはいかがでしょうか。