近年、日本で働く特定技能外国人の数が増加する中で、職場や日常生活の中で日本人や他の外国人と関係を築き、結婚を希望するケースが増えてきています。
特定技能外国人が結婚する際には、さまざまな法的手続きや在留資格の変更が伴い、受け入れ企業としてもその影響を考慮し、適切なサポートを提供することが求められます。
本記事では、特定技能外国人の結婚に関する法的要件、ビザの変更、企業ができるサポートなどについて詳しく解説します。
特定技能外国人の結婚で企業が知っておくべきこと~制度と対応の基本~
特定技能の在留資格は家族の帯同が認められておらず、結婚後も在留資格の変更が必要となることもあります。
以下、特定技能外国人が結婚後に配偶者ビザや永住ビザへの変更を考える際のポイントや企業側の対応について解説します。
国際結婚と配偶者ビザ・永住ビザ
特定技能外国人が結婚した場合、在留資格や雇用契約に直接的な影響はありません。結婚後も、特定技能ビザで働き続けることができます。
ただし、特定技能は更新制で在留期間の制限もあるため、国際結婚をした後、家族と共に安定した生活を送るためには、より長期の滞在が可能な在留資格への変更を考える必要もあります。
特定技能外国人が日本人と結婚した場合には、在留資格を「日本人の配偶者等」に変更することが可能ですが、配偶者ビザへの変更は簡単といえないのが現実で、配偶者ビザを取得できたとしても、定期的な更新が必要となります。
日本人の配偶者ビザを取得し、一定期間結婚生活を継続すれば、永住申請のハードルは低くなります。
国際結婚にまつわる良くある誤解として、日本人と結婚するとずっと日本に居られるというものがありますが、「結婚したら特定技能ビザが自動的に配偶者ビザに変わる」わけではありませんし、結婚したからといって直接永住申請ができるわけでもありません。
結婚と在留資格変更は別の手続きであることを、企業側も知っておくとよいです。
就労制限について
特定技能外国人が結婚するときに就業上、気を付けたいポイントは以下のとおりです。
同じ職種・業種での就労制限
特定技能の在留資格は、日本の人手不足を補う目的で設けられた制度で、特定の業種・職種に限定されています。特定技能1号では働ける分野が指定されており、労働者は原則として許可された業種の範囲内でしか働くことができません。
たとえば、外食業の特定技能ビザを持つ人が、結婚後に家族と過ごす時間を増やすために介護職に転職したいと考えても、原則として認められません。もし日本人と結婚しても、すぐに配偶者ビザへ変更できるわけではなく在留資格の制限はそのまま適用されますので、特定技能の条件を満たし続ける必要があります。
結婚後も働き続けられるよう、生活拠点を決める際に勤務地が離れすぎないように調整が必要です。
家族帯同は認められない
特定技能の在留資格は「労働目的」であり、特定技能1号の在留資格では、結婚しても母国にいる配偶者を帯同することができません。
特定技能1号同士で結婚し、それぞれが特定技能ビザで就労している場合、どちらかの在留資格の期限が終了した時に日本に滞在できなくなる、という問題が起こりえます。
日本での滞在を安定させたい場合は、どちらか特定技能2号や高度専門職などの在留資格を得ることができないか、可能性を探ると良いかもしれません。
配偶者ビザを得ることができた場合

特定技能外国人が日本人や永住者と結婚した場合、在留資格を「日本人の配偶者等」または「永住者の配偶者等」に変更できる可能性があります。「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の在留資格に変更できれば、就労の自由度が大きく増し、職種や業種を問わず働けるようになります。
たとえば、飲食業から宿泊業へ転職したり、パートタイムやフリーランスの仕事を選択したりすることも可能になります。
また、永住権を取得すれば、在留期限の制限がなくなり、どのような職業にも就くことができます。そこで、企業にとっては人材の流動性が増す(他の企業に転職される)リスクでもあるということに留意しておく必要がありそうです。
ただし、在留資格の変更申請には多くの書類が必要であり、申請には安定した収入や結婚の実態を示す証拠が必要で審査も厳しいため、事前にしっかりと準備することが重要です。
企業担当者が確認すべきこと
特定技能外国人が結婚したいもしくは結婚すると相談してきた際には、以下の点に注意し、適切な対応を行うことが重要です。
氏名や扶養についての確認
結婚後、氏名が変更される場合、その変更手続きを確認します。
氏名変更の場合は、パスポートや在留カードなど、法的に必要な手続きや、社員名簿や給与台帳などの社内書類の変更のために、社内手続きの届出についても説明する必要があるでしょう。
氏名変更に伴う手続きは多岐にわたるため、変更が必要な書類をリスト化して共有すると親切です。社会保険の手続きでは、扶養家族の追加や変更の手続きが必要になる場合があります。
特定技能はフルタイム雇用が原則ですので、「扶養に入る」ことは通常ありません。しかし、結婚相手を「扶養に入れる」ことはできる場合もありますので、この場合は確認が必要となります。
税金関連では、扶養控除等申告書の提出について確認しましょう。
特定技能外国人と他の在留資格を持つ外国人が結婚した時の注意点
配偶者が留学生や技能実習生であるときは、特定技能の資格自体に影響はありませんが、相手は結婚により影響が出る可能性があります。
配偶者が「技術・人文知識・国際業務(技人国)」で十分な収入があれば、「家族滞在ビザ」を取得できる可能性があります。しかし家族滞在ビザは、原則として日本での就労が認められていません。
資格外活動許可を取得することで、週に28時間以内でのパートタイム労働が認められますが、特定技能の時の労働条件とは異なる働き方が前提となる認識が必要です。
偽装結婚の問題と企業の対応
特定技能外国人の結婚において、偽装結婚が問題となるケースもあります。
偽装結婚とは、入管法違反の重大な犯罪で、在留資格を取得または維持する目的で行われる形式的な結婚のことを指します。日本では、偽装結婚が発覚した場合、在留資格の取り消しや強制退去の対象となる可能性があるため、企業としても注意が必要です。
企業は、従業員が結婚を理由に在留資格を変更する際、まずは実態のある結婚であるかどうかを確認することが重要になってきます。例えば、結婚の背景や生活状況を確認し、不審な点がある場合は専門家に相談することが推奨されます。
また、特定技能外国人を守るためにも、偽装結婚が違法であり、発覚した場合に深刻な影響があること、不審な勧誘には応じないようしっかり説明する必要があります。
企業としては、従業員の結婚に関して過度に介入することはできませんが、適切な情報提供を行い、問題が発生しないようにするためのサポート体制を整えておくことが求められます。
企業が提供できるサポートと対応

特定技能外国人が結婚をする際、在留資格関連の手続きは、基本的には本人が行います。企業側として必要なサポートの内容も確認しておきましょう。
法的手続きの支援
結婚による在留資格の変更手続きや必要な書類について、可能なら適切な情報を提供します。登録支援機関などの専門機関と連携し、従業員が適切なアドバイスを受けられる環境を整えることも有効です。
実際の結婚手続きでは弁護士や政書士を紹介して代行してもらったり、必要な書類の翻訳や、役所や入管での通訳の手配を行うことができれば、手続きの負担を軽減できます。
特に日本語での意思疎通が得意ではない特定技能外国人に対しては、どのようなサポートを望んでいるのかを聞き取りし可能な範囲でサポートを行うことで、不安を軽減することができます。
ただし、企業が手続きを代行することはできませんし、偽装結婚を疑われないよう必要以上の関与は避ける、ということが注意すべき点です。
専門家への相談は必要か?
企業がどこまでサポートするかは、個々の状況に応じて柔軟に対応するとよいでしょう。
専門家(弁護士、行政書士)への相談は、必ずしも必要ではありませんが、国際結婚の手続きに不安がある場合や、複雑なケースの場合は相談や委任を行うことで、特定技能外国人本人も企業も安心感を得ることができます。
在留資格の変更などには不許可のリスクもあります。個々の状況に応じた適切なアドバイスを求めることで、企業だけではサポートしきれない範囲も支援してもらえるでしょう。
専門家への相談は、時間と費用がかかりますが、トラブルを未然に防ぎ、スムーズな手続きを進める上で、大きなメリットがあります。
おわりに
企業として特定技能外国人の結婚を支援することは、従業員の定着率向上や職場環境の改善にもつながります。
従業員と企業が共に成長できる環境を整えることで、より良い職場環境を目指していきましょう。