特定技能の資格を持って在留する外国人は、国別で見るとベトナムが群を抜いています。そのため「自社でもベトナム人を特定技能で採用したい」と考える企業が増えています。

特定技能でベトナム人を採用するにはどのような手順を踏めばよいのでしょうか。今回は、ベトナム人を特定技能で雇用するメリットを含め、採用の手順を詳しく解説していきます。 

ベトナムの概況

ベトナムの概況

ベトナムは国土32万㎢、人口1億30万人(2024年6月時点)の社会主義国家です。仏教徒が多く、儒教の教えを大切にすることから、心優しく素朴でまじめという国民性が特徴といわれています。

2020年のコロナ渦でもASEAN各国の中で唯一、経済成長率がプラスで推移し、2022年には約8%の高成長を見せるなど、急成長を遂げている国です。

特定技能でベトナム人が一番多い理由

2024年6月時点で特定技能外国人はおよそ25万人。そのうち半数の約13万人がベトナム人です。なぜこれほどまでにベトナム人が多いのでしょうか。

出典:出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」

ベトナム戦争以降、ベトナム国内では就業が難しく失業者であふれるようになり、海外へ出稼ぎに行く人が増加しました。そのような中、1993年に日本で始まった技能実習制度を利用し、賃金や労働環境の良い日本へ技能実習生として来日する人が増加。

そしてここ10年ほどで、技能実習から特定技能へステップアップする道筋が整ったことから、特定技能に移行するパターンが増え、その結果、ベトナム人の特定技能者の割合が多くなったというわけです。

ベトナム人材を日本に受け入れるメリット

ベトナムの人口比率は60歳以下が約65%を占めています。平均年齢は30代前半と若年層が多く、若い人材を獲得しやすいことから、日本企業が求める人材とマッチしやすいといえます。

同じ仏教を信仰する宗教的な面でも、日本人と感覚が近いことも、ベトナム人を受け入れるメリットと言えるでしょう。

ベトナム人材を日本に受け入れる際の注意点

特定技能でベトナム人を雇用するには、様々な手順や手続きを踏まなければいけません。国同士の取り決めがあるため、気を付けるポイントがいくつもあります。

ここでは国外、国内それぞれで採用するケースに分けて解説します。

国外採用のケース

国外にいるベトナム人を採用する場合、国同士の取り決めによる手続きを踏んでおかなければ、そもそも入国する際の在留資格を取得できないので注意しましょう。

二国間協定によるDOLAB認定の送り出し機関を利用

日本とベトナムは特定技能に係る協力覚書を締結しており、現地のベトナム人を採用するには、まず送り出し機関との契約が必要です。

現地の送り出し機関と契約を結んだ後、送り出し機関を通じてベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(以下、DOLAB)から承認を得る必要があります

DOLABの推薦者表交付申請が必要

承認をうけたら、採用予定のベトナム人と日本企業とで雇用契約を結びましょう。その後、送り出し機関を通じてDOLABから推薦者表を取得する必要があります。

推薦者表がなければ、日本に入国するための在留資格認定証明書交付の申請ができません。注意しましょう。

国内採用のケース

すでに日本国内に在留しているベトナム人を特定技能で雇用することも可能です。しかしこの場合も必要な手続きがあるため、よく理解しておきましょう。

国内でも駐日ベトナム大使館による推薦者表交付申請が必要

すでに日本国内で働いている人や、留学で在留している人を特定技能として採用する場合、駐日ベトナム大使館から推薦者表を交付してもらう必要があります。大使館ではベトナム語での対応となることもあるため、申請には本人に同行してもらうのが良いでしょう。

国内でも出入国在留管理局へ在留資格変更許可申請が必要特定技能で採用することが決まれば、在留資格変更許可を申請しましょう。前職も特定技能で働いていた人を、別の企業で同じく特定技能として雇用する場合、資格は同じ特定技能ですが、この場合も変更許可申請が必要です。

就労資格証明では足りないことに注意しましょう。

ベトナム人を特定技能で採用する経路

ベトナム人を特定技能で採用する経路

雇用しようにも「ベトナム人をどのようにして採用すれば良いかわからない」という企業は多いです。ここではベトナム人を採用する方法について、国外・国内にわけて解説します。

ベトナムから招聘する場合は送り出し機関を活用

ベトナムにいる人を採用するには、現地の送り出し機関を活用しましょう。現地で採用活動を一から自力で行うことは非常に難しいです。

送り出し機関は日本で就職を希望する人を把握しているので、まずはどんな人材がいるか問い合わせてみましょう。

元技能実習生から特定技能へ

技能実習生として日本で働いた後、帰国した人の中には再び日本で働くことを希望している人もいます。 技能実習2号を良好に修了していれば特定技能へ移行しやすく、即戦力として受け入れることができます。

現地の技能実習生送り出し機関や、日本の監理団体などに問い合わせてみると良いでしょう。

特定技能試験合格者

特定技能として働くには、基本的に技能試験と日本語試験の両方をクリアする必要があります

技能試験は、該当分野に対する相当程度の知識と経験を確認する試験です。内容は学科と実技にわかれ、該当分野の業務を網羅する内容となっています。詳細な試験内容は、各分野の試験情報をご確認ください。

日本語試験は、国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験を受験する必要があります。日常生活を送る上で支障がない程度の能力として、日本語能力試験N4レベル以上を求められます。

試験は国内外で年間を通して行われているので、現地で試験に合格した人を採用することが可能です。詳しくはそれぞれのHPをご確認ください。
国際交流基金日本語基礎テストHP
日本語能力試験HP

日本にいる方を採用する場合

日本にいるベトナム人を採用するには、日本人と同様のリクルート活動を行いましょう。採用サイトの利用や紹介による採用も可能です。その他にも、技能実習修了者や留学生を採用することも検討しましょう。

技能実習修了者

技能実習生2号修了者は特定技能の試験が免除されるため、即戦力としてスムーズに採用できます。日本で技能実習生として在留している人に、特定技能へのステップアップを提案してみると良いでしょう。

ただしその場合、技能実習で行った業務と特定技能で就業する分野が同じである必要があります。別分野で特定技能として受け入れたい場合は、技能実習修了者であっても、該当分野の試験に合格しなければいけないことに注意しましょう。

留学生

留学生を特定技能で採用することもできます。この場合は試験合格が必須です。学校の卒業時期や入社日から逆算して、受験から在留資格取得までを計画的に進める必要があります。

学生を採用する場合は、企業のサポートが不可欠でしょう。

面接でのポイント

面接でのポイント

外国人採用は文化の違いや言葉の壁など、日本人とは異なるポイントがいくつもあります。特に宗教や人種、国籍に関するデリケートな質問は、基本的にNGです。

確認が必要な場合も「何か必要な配慮はありますか?」といったように、差別的にならないように気を付けましょう。 

条件を前面に押し出しすぎない

採用条件は後々トラブルにならないようにお互いが理解しておくべき大切なものです。しかし面接の際に条件ばかり押し付けることは控えましょう。

ベトナム人にとって異国の地で働くことは、少なからず不安や心配があるものです。四角四面に話をするのではなく、必要な条件を提示しながらも柔軟な姿勢を見せましょう。

本人の意向と性質を確認しミスマッチを防ぐ

キャリアプランやそれをふまえた将来設計について、しっかり本人の意向を聞き取りましょう。「長期雇用を念頭に採用したのにすぐに帰国してしまった」といったように、会社の意向とズレがないか確認することが大切です。

また、同じベトナム人でも人によって性質や考え方は当然異なります。採用後にトラブルにならないよう丁寧に確認し、できる限りミスマッチを防ぎましょう。

入社が決定したら行うこと

入社が決定すると必要な手続きが多数あるので、抜け漏れがないように着実にこなしていきましょう。手続きや処理に時間のかかるものもあるため、早めに取り掛かることが大事です。

協議会へ加入

協議会は特定技能の分野ごとに設置されている機関です。各分野で働く特定技能外国人と、外国人を受け入れる企業(受入れ機関)をまとめる役割があります。

受入れ機関は協議会への加入が義務付けられています。加入方法は対象分野を管轄する各省庁のHPをご確認ください。

支援計画に沿って行動

特定技能で外国人を受け入れる際、支援計画を策定します。これは仕事だけでなく、日本での生活面もふくめてサポートをするためです。

策定しただけでは意味がありません。しっかり計画に沿って行動することが求められます。

ビザ申請の手続き

入社が決定し雇用契約を結んだら、在留資格(ビザ)の申請手続きを行いましょう。国外採用の場合は在留資格認定証明書交付申請、国内採用は在留資格変更許可申請を行います。

どちらも必要書類が数多く、準備に時間がかかります。場合によっては審査に数カ月かかることもあるため、入社が決まったらなるべく早く申請しましょう

登録支援機関を頼ることも検討

特定技能の支援計画や各種手続きに関する実務は、外国人を採用する前からすでに始まっています。また、採用した後も定期的に報告や届出が義務付けられているため、適切に実行する必要があります

これらを滞りなく行うために、登録支援機関を頼ることも検討しましょう。登録支援機関は、特定技能外国人が日本での就労や生活を円滑に行うことができるようにサポートする機関です。受入れ機関のフォローも同時に行ってくれます。

入社後にはしっかりフォロー

入社後のフォローがとても大切です。採用したから終わりではなく、外国人も日本人も、お互いにスムーズに仕事を行えるようにサポートをしていきましょう。

支援計画をベースに外国人をフォロー

どのようにフォローしたらよいかわからない、という場合には、支援計画をベースに考えると良いでしょう。支援計画は入国の準備から就労中の困りごと、生活面での相談など事細かく決められているため、総合的なサポートが可能です。

自社で対応が難しい場合は登録支援機関に相談することも検討しましょう。

職場で孤立させない

外国人に限らず、新しい職場や仕事に慣れるまでは時間がかかります。孤立させないよう外国人も日本人も、お互いを理解し歩み寄ることが大切です。

そのうち慣れるだろうと放置せず、企業が率先して交流の機会を設けるなど行動することが必要でしょう。

ビザの更新

特定技能のビザは更新が必要です。在留期間の更新を忘れたままでいると、不法滞在となってしまいます。

本人任せにせず、企業側でもしっかり把握し、更新時期が近付いてきたら声をかけるなどサポートをしましょう。

採用で掛かる費用

特定技能の採用には様々な費用がかかります。国内外別にかかる主な費用を解説します。

国外から採用する場合

国外のベトナム人を採用する場合にかかる主な費用は以下のとおりです。

送り出し機関10~50万程度
紹介手数料30万円前後(人材紹介会社を利用した場合)
渡航費10万円前後
生活支援費日本での生活に必要なもの(例 健康診断費、家賃補助、生活必需品の準備など)
給与日本人と同等以上の水準。賞与などの手当ても必須
ビザ申請費用15万円前後
登録支援機関月数万円~

渡航費、生活支援費は外国人本人の負担でも問題はありません。しかしほとんど場合、企業側が負担しているのが現状です。

外国人にすれば負担が大きくなるため「企業が負担してくれないなら辞退する」「負担してくれる企業を選ぶ」ということも珍しくありません。また、本人が国外にいる場合、住宅やライフラインの契約ができないため、必然的に企業が対応することになるでしょう。

国内から採用する場合

国内で採用する場合は、送り出し機関に支払う費用や渡航費は必要ありません。技能実習から特定技能へ移行するのであれば、ビザ申請費用、登録支援機関委託費、給与程度で済む場合もあります。

まとめ

まとめ:特定技能でベトナム人を採用したい〜雇用にあたって一連の流れをわかりやすく解説〜

特定技能でベトナム人を受け入れる場合、本人が国内外のどちらにいるかによって対応する手順や手続きが異なります。まずはどのようなルートで採用するか検討しましょう。

ルートが決まれば、入国や入社日までに手続きを完了させる必要があります。採用後も定期的な報告や届出を忘れないように、また、公私にわたってフォローをしていきましょう。

自社で対応が難しい場合は、登録支援機関を活用することをおすすめします。

参考文献
外務省ホームページ
JETROホームページ